経団連くりっぷ No.80 (1998年6月11日)

第21回日本カナダ経済人会議(委員長 江尻宏一郎氏)/5月18日〜19日

アジアの安定に向けた日加の役割


日本カナダ経済委員会では、5月18日〜19日に軽井沢にて第21回日本カナダ経済人会議を開催し、日加合わせて約270名が参加した。全体会議では、日本の構造改革の現状と課題、カナダの構造改革の経験について両国より報告が行なわれた他、アジアの経済危機ならびにエネルギー・環境問題についてパネルディスカッションが行なわれ、日加協力の可能性が検討された。産業別分科会では、日加両国の各分野の現状と今後の協力の可能性について活発な議論が行なわれた。

  1. 団長開会挨拶
  2. 全体会議におけるブージーカナダ側団長(左)と江尻団長(右)

    1. 江尻日本側団長
    2. 今回の景気の停滞は、日本経済の中期的な潜在成長力の低下によるものではなく、金融機関の抱える多額の不良債権など、バブル経済の負の遺産の処理が未だ不十分なことに起因するものと考える。日本経済の根幹が揺らいでいるわけではない。
      橋本政権は、目下の再重要課題として景気刺激策に取り組んでいる。規制緩和、税制改革などさらなる経済構造改革が着実に実行されれば、民間主導・内需中心の力強い経済へと生まれ変わるものと確信している。われわれ産業界も閉塞感から脱却し、前向きに事業を展開していく所存である。

    3. ブージーカナダ側団長
    4. 世界第2位の経済大国であり、カナダにとって第2位の貿易相手国である日本経済の不振をカナダ企業は、深刻に受け止めている。責任ある政策決定の下、金融改革および規制緩和さらなる市場開放を実行し、活力ある経済を取り戻してほしい。
      カナダ経済は失業率の低下と低インフレ率の維持など好調に推移しており、1998年の成長率見込みはG7で最も高い。アジア経済危機の影響は全体的にはさほどないものの、日本の内需の冷え込みとアジア諸国製品との競争激化が特定産業および地域にマイナスの影響を与えている。状況は厳しいが、これまで両国が築いてきた関係をさらに強化するためのチャンスと捉えたい。

  3. 日本の構造改革、カナダの構造改革
    1. 田中直毅 21世紀政策研究所理事長
    2. 日本経済再生のためのカードは、まだまだたくさんあるが、政府首脳の決断力の欠如から改革がタイムリーに行なわれていない点にはがゆさを感じる。早急に政府が取り組むべき構造改革は、

      1. 2000年までのマネタリーベース10%ずつの増加、
      2. 法人税の減税、
      3. 公共事業関係費など歳出の見直し、
      4. プライベート・ファイナンス・イニシアチブ、
      5. 年金改革、
      等があげられる。これらの政策の実施を民間サイドから政府に提言し、改革を推進していくことが求められる。

    3. ポール・サマービール RBC-Dominion Securitiesチーフエコノミスト
    4. カナダは90年代初頭から金融、財政、通商の3つの分野で改革を実施し、力強い経済に生まれ変わった。金融政策では、中央銀行が1993年以来インフレ率を年率1〜3%以内に押さえる金融政策を展開し、物価上昇率と金利が低く安定したマクロ経済環境を実現した。財政改革では歳出の名目支出を削減するとともに、各州の財政運営責任を明確化した。その結果、98年度の連邦予算は、27年ぶりに均衡を達成した。通商政策では、米加自由貿易協定(89年1月発効)、北米自由貿易協定(94年1月発効)を締結し、市場の自由化を促進した。これらのカナダの一連の構造改革は、日本の構造改革にも参考になるものと考える。

  4. アジアの経済危機をどう見るか
    (パネル・ディスカッション I)
  5. Royal Bank Of Canadaのテイラー上級副社長よりアジアの経済危機のカナダ経済への影響について

    1. 資源エネルギーの対アジア輸出の減少、
    2. 安価なアジア製品の輸出増加による競争の激化、
    3. 米国経済の減速による市場の縮小などが懸念される旨、
    報告があった。
    東京三菱銀行の吉澤副頭取からは、アジア経済の危機の背景と各国の対応策、国際的協力体制の必要性などについて説明があった。日本については、アジアからの輸出アブソーバーとしての役割、直接投資を含む資本供給の担い手としての役割、円の利便性の向上など金融安定を誘導する役割が求められていることが指摘された。
    また、日本興業銀行の藤沢副頭取より東アジア経済危機の現状および日本への影響と役割について報告があり、日本経済が安定軌道を取り戻し、中国や韓国と共に国際的な信用崩壊のドミノ現象を食い止めることへの期待が述べられた。

  6. 東アジアのエネルギー需要と環境問題
    (パネル・ディスカッション II)
  7. 東京電力の宅間取締役原子力副本部長より、東アジア地域のエネルギー需要の現状と今後の見通しについて

    1. 人口増加と経済成長の高い伸びを背景に、エネルギー需要も高い伸びが予測され、インフラ整備が大きな課題になること、
    2. 地球規模での環境問題が東アジアから顕在化していく惧れがあること、
    等があげられた。
    カナダ側からは、BCNI(ビジネス・カウンシル・オン・ナショナル・イシュー)のダッキーノ理事長より、グローバル経済における資源エネルギー問題の重要性ならびに先進的カナダ企業の取組み事例の紹介が行なわれた。
    また、トヨタ自動車の松原取締役より、同社の環境問題への先進的取組みに関する紹介があった。
    COP3の数値目標については、カナダ側が、現実の世界からかけ離れた実現不可能な設定との見解を示したのに対し、日本側は目標は厳しいが、実現を目指して技術開発に取り組んでいくとの見解を示した。市場経済のメカニズムが損なわれるべきではないという点では、両国の意見が一致した。

  8. 分科会
  9. 19日の午後に、エネルギー分科会合同会議および石炭小分科会、鉱産物分科会、林産物分科会、自動車・同部品小分科会が行なわれた。


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