経団連くりっぷ No.81 (1998年6月25日)

貿易投資委員会(司会 櫻井WTOスタディグループ座長)/5月27日

ルール志向型基準に基づいた国際経済問題の解決を目指して


通産大臣の諮問機関である産業構造審議会では、WTO協定などの国際ルールを基準にわが国の主要貿易相手国の貿易政策・措置を分析し、その問題を明らかにした「不公正貿易報告書」を毎年発表している。同報告書の98年版が公表されたのを機に、産業構造審議会WTO部会不公正貿易政策・措置調査小委員会委員長を務めている一橋大学経済研究所の鈴村興太郎教授、同副委員長の東京大学法学部の石黒一憲教授他より諸外国の貿易政策の問題点とわが国産業界への影響等について説明を聞くとともに懇談した。

  1. 滝本通産省公正貿易推進室長説明要旨
    1. 不公正貿易報告書とわが国の通商政策
    2. 日本市場は、米国から不透明で閉鎖的市場とのレッテルを一方的に貼られ、通商法301条等に基づき市場開放を求められてきた。これに対し、わが国政府はWTO協定など国際的に合意されたルールに基づいて主要貿易相手国の貿易政策・措置を明らかにし、改善を促すルール志向型問題解決を重視している。
      不公正貿易報告書はルールに基づく通商政策の実現に資するべく、92年より毎年発行されている。すなわち、WTOの2原則(最恵国待遇、内国民待遇)と12ルール(数量制限、関税、アンチ・ダンピング措置、補助金・相殺関税等)に基づき、対日貿易額上位12カ国・地域(米国、EU、韓国、豪州、インドネシア等)の貿易政策・措置の問題点を明らかにし、その撤廃・改善を求めている。
      本年度からは、同報告書で指摘した各国の貿易政策・措置の中から、わが国の通商上の利益に与える影響の大きいものを中心に選定し、重点取り組み事項として発表した。これらについては、WTOの場や関係国などとの協議を通じて具体的改善を働きかけていく。

    3. 中国、ロシアのWTO加盟
    4. 同報告書では、現在、WTO加盟交渉中の中国とロシアがWTO加盟に際して是正すべき政策・措置についても指摘している。中国に関しては、モノに関する交渉は最終段階にあり、サービス交渉に重点が移っている。わが国は包括的自由化交渉の開始前のWTO加盟を支持している。ロシアに関しては、ロシア側の自由化オファーに基づいて二国間交渉が始まったところである。

  2. 鈴村一橋大学経済研究所教授説明要旨
    1. ルール志向型基準の意義
    2. 本報告書が「ルール志向型基準」を貫く意義は3点ある。第1に、わが国自身のルール志向型アプローチへのコミットメントを深めることができる。
      第2に、ルール自体が加盟国にとって公正なものであるか見直すとともに、必要な改善点を提起することができる。
      第3に、日本の通商政策のスタンスを国際的に周知させることができる。本報告書は、合意されたルールを遵守する「フェアプレーの義務」と、国際公共財としてのルールを確かなものにしていく「フェア・プレーの設計」の重要性を訴えている。

    3. WTO紛争解決手続と日本の役割
    4. WTOの紛争処理手続は、

      1. ネガティブ・コンセンサス方式による意思決定の導入、
      2. 一方的措置禁止の明文化等、
      GATT時代よりかなり改善された。しかし、紛争案件の増加に伴うパネルおよび上級委員の負担増大や、内容の複雑化・多様化等の新たな問題が生じていることから、報告書ではいくつかの改善案を提示している。
      日本は、多角的貿易体制を享受し発展してきた。国内制度をWTO協定に整合的なものとすることは不可欠だが、ルールへのコミットメントから一歩進んで、ルールが不十分な分野、カバーされていない分野のメカニズムを構築する国際的インフラストラクチャーの供給者としての役割を担っていくべきである。

  3. 石黒東京大学法学部教授説明概要
  4. 日米フィルム問題の意味

    米国は、WTOの場でアジア市場に不公正な「インビジブル・バリア(目にみえない障壁)」が存在することを証明することをねらいとし、96年6月13日に日本のフィルム・印画紙市場問題をWTOに提訴した。二国間協議が開催された後、米国の要請により、GATT23条1項(非違反申立)に基づく協議のパネルが設置された。98年1月のパネル最終報告で日本側勝訴に終ったが、もし日本側が敗訴していれば、米国は、通信、金融など他分野においても、日本の目にみえない障壁の存在をWTOの場で証明することを試みたであろう。
    わが国としては、OECD等の場で米国の一方的主張で新しい分野の国際ルールが作成され、これがWTOのルールメーキングに繋がっていかないよう十分に注視する必要がある。日本は、グローバル・スタンダードを所与のものと捉えがちだが、真に公正なスタンダードの構築に参加してくことが求められる。

  5. 福井通産省通商協定管理課長説明概要
  6. 第2回WTO閣僚会議とさらなる自由化

    5月18日から20日までジュネーブにて行なわれた第2回WTO閣僚会議の閣僚宣言には、次期自由化交渉に関する作業計画を第3回閣僚会議で決定できるよう準備プロセスを今秋に開始することが盛り込まれた。また、電子商取引については、次期閣僚会議まで関税を付さない旨の宣言が採択された。
    2000年以降からの自由化交渉については、先進国はビルトインアジェンダで定められている農業、サービス分野に限らず広範囲な分野を対象とすべきとの立場を示している。これに対し、途上国は貿易自由化の恩恵を受けていないことに対する不満を表明するとともに、先進国主導のラウンド交渉に懸念を示している。第3回閣僚会議は、米国主催で1999年後半に開催されることとなった。


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