経団連くりっぷ No.81 (1998年6月25日)

貿易投資委員会(委員長 北岡 隆氏)/5月29日

第2回WTO閣僚会議の成果とさらなる自由化交渉に向けた課題


5月18日〜20日にジュネーブにおいて開催された第2回WTO閣僚会議の模様と2000年以降の自由化交渉に向けた諸課題について、外務省経済局国際機関第一課の梅本課長より説明を聞くとともに懇談した。以下は梅本課長の説明概要である。

  1. 第2回WTO閣僚会議の成果
  2. 今次閣僚会議では、WTO協定の実施状況、今後の自由化交渉のあり方、電子商取引の問題を中心に議論が行なわれた。
    WTO協定の実施面では、WTOが総じて有効に機能していること、WTOの信頼性をさらに強固なものとするために加盟国によるUR合意の着実な実施が重要であることなどが確認された。また、アジア経済危機との関係で、加盟国が保護主義的動きを阻止し、引き続き市場開放に努めることが国際経済の安定に繋がるとの認識が得られた。
    将来の自由化については、99年後半に米国で開催される第3回閣僚会議において2000年以降の自由化交渉のあり方について適切な決定が行なえるよう、本年秋より準備プロセスを開始することが合意された。
    電子商取引については、米国が電子送信に対する関税不賦課について強い拘束力を持つ決定を行なうことを主張した。これに対し途上国は、WTOの場で電子商取引を取り扱うことに難色を示した。最終的には、電子商取引の貿易的側面を検討する包括的な作業計画をWTOで設定すること、第3回閣僚会議までの間は電子送信に対する関税不賦課を継続することなどが宣言として採択された。

  3. 2000年以降のさらなる自由化交渉
    1. ウルグアイ・ラウンド合意とさらなる自由化
    2. 農業、サービス分野は、2000年以降のさらなる自由化交渉の対象とすることがビルトイン・アジェンダ(合意済課題)に組み込まれている。こうしたなか、さらなる自由化交渉に対する加盟国の考え方は3つに分かれている。

      1. 途上国は、新しい交渉よりビルトイン・アジェンダの着実な実施を支持している。特に、インド、パキスタン、インドネシア、マレーシアは広範囲な自由化交渉に反対している。

      2. 米国とカナダは、広範な分野(ビルトイン・アジェンダ、鉱工業製品の関税自由化、新たなルールの策定等)を対象に、短期間で具体的な成果があがるような交渉を行なうことを主張している。例えば米国は、分野別の交渉により、できる分野から自由化する方法を支持している。カナダは、分野をある程度グルーピングして交渉していく方法を支持している。

      3. 日本、EU、シンガポール、香港、オーストラリア、ニュージーランドは、ビルトイン・アジェンダ、鉱工業製品の関税自由化、新たなルールの策定等について包括的交渉を行いたいとの立場を示している。

    3. 新たな分野のルール策定
    4. WTOで作業が進められている新たな課題をどこまで今後の自由化交渉に組み込むかも今後の焦点となっている。

      1. 貿易と投資:
        先進国は国際的な投資ルールの作成を主張している。中南米の主要国も投資ルールの必要性を認めているが、シンガポールを除く東南アジアは否定的立場を取っている。

      2. 競争政策:
        ECは、競争政策に関するミニマム・スタンダードの策定を支持している。米国は、WTO加盟国の半分以上が競争法を持たない現状でミニマム・スタンダードの作成は困難との見解を示している。

      3. 政府調達:
        現在の政府調達協定は参加の自由な複数国間協定であり、一部の先進国しか参加していない。そこで、99年末を目標に、途上国も参加できるような「政府調達の透明性」に限定した協定を作る作業が進められている。

      4. 貿易と環境:
        多国間環境協定(MEAs)とWTO協定の関係、環境政策と貿易政策の相互関係などについて議論が行なわれてきたが、先進国と途上国間の利害が対立しているため、議論は進展していない。このような状況を鑑み、EUは、貿易と環境に関するハイレベル会合の開催を提唱している。

      5. 貿易と労働:
        第1回WTO閣僚会議で労働問題はILOが取り扱うこと、労働問題を保護主義的手段として用いないことなどが確認された。しかし、労働に関する国内世論を沈静させるために、欧米が再びWTOにおける議論を要求してくる可能性がある。

  4. その他の課題
    1. WTOの透明性
    2. 今回の閣僚会議に合わせて開催された多角的貿易体制50周年記念会合において、クリントン大統領より、さらなる貿易自由化に対する国内の支持を得るためには、WTOに関する情報の早期開示、会議や紛争解決パネルへのNGOのオブサーバー参加などを通じてWTOの透明性を高めることが重要との問題提起があった。WTOと民間の関わり方についても検討を行なう必要性が生じている。

    3. 中国、ロシアの加盟
    4. 両国の加盟に対し、欧米は十分な市場開放を約束させたうえで加盟を認めるべきとの見解を示したのに対し、途上国は加盟のハードルはあまり高くすべきではないとの意見を表明した。わが国は、ある程度の基準を満たしたところで早期加入を認めるべきとの立場である。2000年以降のさらなる自由化交渉が始まる前に加盟を実現しなければ、当面、加盟は困難となろう。

    5. 南北問題
    6. 多くの途上国が、多角的貿易体制の恩恵を十分に享受していないとの不満を表明した。WTOのコンセンサス・プロセスに途上国をどのように取り込んでいくかが大きな課題のひとつとなっている。特に、さらなる自由化交渉に関しては、先進諸国に繊維、農業分野の市場開放を強く求める途上国と一層の自由化の必要性を主張する先進国の利害調整が必要となる。

    7. WTO紛争処理手続
    8. WTOの紛争処理体制は、これまでのところ加盟国の支持を得ているが、今後は紛争案件の増加や複雑化に対応した制度の強化が望まれる。WTO紛争手続の見直しは1998年から4年以内に行なわれることが決められているが、抜本的改革を行なう予定はない。


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