経団連くりっぷ No.81 (1998年6月25日)

日本コロンビア経済委員会(委員長 槙原 稔氏)/6月2日

新政権は8月に発足
−バレンシア駐日コロンビア大使よりコロンビア情勢について聞く


日本コロンビア経済委員会では1998年度総会を開催し、97年度事業報告・決算、98年度事業計画・予算、役員改選を審議、承認した。当日はバレンシア駐日コロンビア大使より、最近のコロンビアの政治・経済情勢について説明を聞くとともに懇談した。

  1. バレンシア大使講演要旨
    1. 民主主義の定着と大統領選挙
    2. 昨年10月の地方選挙、本年3月の国会議員選挙、そして5月31日の大統領選挙等を通じ、コロンビアには堅固な民主主義体制が着実に根づいている。このうち大統領選挙では、自由党のセルパ候補と保守党のパストラーナ候補の得票率が僅差となり、両者の間で決戦投票が行なわれる。

    3. 経済情勢
    4. コロンビアは、80年代に中南米諸国で起こったいわゆる「失われた10年」と呼ばれる経済危機の際も、経済は安定的な発展を遂げ、債務の返済も滞りなく行なわれた。このように安定したマクロ経済、国際的に見ても透明性の高い外国投資法、優秀な労働力、東西南北の架け橋となりうる地理的優位性といった条件がコロンビアには揃っている。90年代に入り経済開放政策を進めた結果、89年に平均44.5%であった関税率は、98年には約10%にまで引き下げられた。97年は3.1%のGDP成長率を記録する一方、インフレ率は17.7%に下がり、外貨準備高は100億ドル以上にのぼっている。
      海外からの投資も、91年以降毎年増加している。1億2,000万人の市場を持つアンデス共同体域内の本年の貿易額は、66億ドルにのぼると見られている。またアンデス共同体とメルコスールとの間で、将来の貿易の自由化に向けた協議も進められている。

    5. 新たな展開を見せる石油政策
    6. コロンビア政府は、国営石油公社エコペトロールが資本参加しない、民間資本のみによる新たな石油精製施設の建設を決定した。また従来の一社ずつの契約交渉に代わり、約60の石油会社が競争入札により18の油田探査と開発の契約に参加している。97年には日本、カナダ、メキシコ、米国の計9つの石油会社が、合弁事業でコロンビアの試掘井の掘削を実施した。またエコペトロールは、新たな油田発見が期待されるグアビラ海底での油田調査について本年4月テキサコおよびシェルと、カリブ海域については先週アモコおよびアルコとそれぞれ契約した。

    7. 国際舞台での活躍
    8. コロンビアはこの3年間、非同盟諸国会議の議長国を務めている。非同盟諸国会議は貿易障壁を持つ先進国に対し、輸出品の安定市場の確保および途上国の一層の発展の見地から、広範な市場開放を要求している。また麻薬対策については、国連や米州機構のような国際機関を通じて、各国が麻薬不正取引について公正な責任分担を果たしているか否かを国際社会が監視すべきであると訴えている。

    9. 太平洋への総合アクセスプロジェクト
    10. 環太平洋諸国との結びつきを強めるため、コロンビア政府は「太平洋への総合アクセス」プロジェクトを最優先で進めている。これは

      1. ブエナベントゥーラ港に出入りするための航路の拡大、
      2. ブガ市とブエナベントゥーラ港間の幹線道路の拡張、
      3. 西部鉄道(太平洋鉄道)の復興、
      4. ブエナベントゥーラ港の施設・設備の拡大改善、
      5. サンタフェ・デ・ボゴタ市とブエナベントゥーラ港間の幹線道路の改善と中央山脈横断トンネルの建設、
      の5つの事業からなる大規模プロジェクトである。当プロジェクトへの日本企業の参加を期待する。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    大統領選挙は決戦投票になったということだが、その見通しおよび新政権発足のスケジュールはどうか。
    バレンシア大使:
    決戦投票は6月21日に実施され、同日夜には大勢が判明しよう。結果を予測することは難しいが、今回の第1回投票において、これまでの自由党、保守党という二大政党に加え、第3の勢力すなわち独立派が高い得票率を得たということは、二大政党以外の独立した自由な層が育ってきていることを示すものとして、注目に値する。大統領就任式は8月7日に行なわれ、同日夜には組閣が完了する。
    自由党、保守党2人の候補者の公約は、実際の政策実現の方法については若干異なるものの、基本的な内容はほぼ同じである。最優先課題として
    1. 国内の和平の達成、
    2. 麻薬対策、
    3. 社会的プロジェクトの整備(新規雇用創出、住宅の整備、衛生環境の改善等)、
    があげられている。

    経団連側:
    民間資本のみにより石油精製所の建設を行なうとのことだが、候補者はあるのか。
    グティエレス参事官:
    コロンビアは豊富な原油を有する一方、石油精製能力が不足しており、大きな問題となっている。そこで政府は、民間部門のみによる精製所建設にゴーサインを出した。民間部門のみとしたのは労働問題が理由である。すなわちエコペトロールは組合の力が強く、これがプロジェクトに参加することによりオペレーション・コストを押し上げることになるからである。政府はコロンビアの民間部門に対し、外国投資家と組んで精製所を建設するよう奨励している。

    経団連側:
    コロンビアが自国の石油資源を利用して工業製品を作ろうとしている段階では、国内市場の開放よりもむしろ多少の保護関税を設定してでも、自国の産業に対する保護政策をとる方がよいのではないか。
    バレンシア大使:
    政府は依然として経済開放に強い関心を持っている。開放的な政策は、全体の貿易を押し上げるための環境を整備する上で効果があった。コロンビアとベネズエラの間の貿易額は98年は30億ドルにのぼる見込みであるが、以前は1億ドル足らずでしかもその多くが密輸であったことからみても、コロンビアの開放政策は成功したということができる。
    一方、中小企業等個別のケースでは保護する必要があると考える。ガビリア大統領が経済開放政策を始めて以来、まだ6年しかたっておらず、まだ調整段階である。新政権発足後は、雇用、教育、富の分配等の社会問題への対策に、より重点がおかれることと思う。

くりっぷ No.81 目次日本語のホームページ