経団連くりっぷ No.82 (1998年7月9日)

第598回理事会/6月16日

総会屋への対応について関口警察庁長官から聞く


多くの企業で株主総会を控えていることから、昨年に引き続き理事会において関口警察庁長官から総会屋対策について説明を聞いた。長官からは「一切の反社会的勢力と決別する決意を新たにし、その姿勢が内外に見える形で具体的行動を起こすことが必要である」との発言があった。また、今井会長からも企業トップに対し総会屋等の反社会的勢力との関係遮断に引き続き全力をあげるよう呼びかけた。以下は関口長官の発言要旨である。

  1. 近く行なわれる株主総会を前に、改めて総会屋等と対決する姿勢と意識を鮮明にしていただきたい。
    昨年は、さまざまな業界においてわが国を代表する複数の企業が総会屋等との不明瞭な関係を続けていたことが明らかになった。これら利益供与事件をみると、総会屋等に対する供与額が以前にも増して膨大な額に上っていたこと、その関係が極めて長期にわたっていたこと、関係を遮断する機会があったと思われるにもかかわらず、実行に移されなかったことなどが明らかになっており、企業と総会屋等との関係の根深さに驚かされた。このように数多くの企業において総会屋等の跋扈が許されていたことは、当該企業が糾弾されるに止まらず、企業社会全体への不信を招くことにもなった。

  2. このような状況に鑑み、政府においても、総会屋問題はもはや放置できない極めて深刻な状況に至っているとの認識の下に、昨年7月に関係閣僚会議を設置した。その9月の会合において、いわゆる総会屋対策要綱が取りまとめられ、現在その内容に基づき諸対策が推進されている。また、経団連による「企業行動憲章」および「企業行動憲章 実行の手引き」の一層の周知徹底、トップレベルでの情報交換の促進、関係機関との連携強化、さらには各所管省庁からの業界団体や個別企業への働きかけもあり、いわゆる情報誌の打ち切り等の動きも広がりを見せ、現実に総会屋等の発行する一部の情報誌が廃刊に追い込まれたり、一部の総会屋が会社訪問を止め、総会屋としての活動を停止した例も出ている。
    情報誌打ち切りに対するリアクションなども懸念されたが、総会屋等の活動は全体的に鎮静化しており、表面的には各企業との間で大きな軋轢が生じたということもない。また、これまでに開かれた本年の株主総会をみても、総会屋等の出席数や発言数も大幅に減少するなど、官民あげて対策に取り組んだ効果は一応出ていると思われる。

  3. しかし、総会屋は、種々な形に化身しながら、あらゆる手段を駆使して企業に執拗に接近し金銭を求めてくることが危惧される。例えば、企業が要求に応じやすいような名目のつく形での要求、すなわち「海の家」利用料や広告費名目の他に、研究会の会費、パーティの参加費、企業で購入する物品の仕入れ、企業で発注する工事の下請け等の名目での要求が考えられる。また、株式を所有する企業から直接利益供与を受けるのではなく、その子会社や関連会社を紹介させて、そことの取引を求めたり、地方の支店や工場等、対応に不慣れな部署を狙ってアプローチしてくることも考えられ、いささかも予断は許されない。
    一度、こうした反社会的勢力に屈すれば、経済秩序が著しく乱れることになる。グローバル化が進む今日、国際社会の中で総会屋が内在するわが国の経営体質は恥ずべきことであり、到底通用するものではないと考える。
    企業トップが今こそ「暴力団、総会屋等の一切の反社会的勢力と決別する」決意を新たにされ、その姿勢、意思が部内外に見える形で具体的行動を起こしていただきたい。近年、国民は、官民を問わず、社会のあらゆる活動に対し、公正さ、透明性を厳しく求めている。こうした国民の声には真摯に耳を傾け、正すべきところは正していかなければならない。これまで、反社会的勢力からの不当な要求に対しては、担当者がうまく処理して、上層部に迷惑をかけないことが担当者の責任とされてきた風潮があると聞き及んでいる。しかし、企業から何らかの形で反社会的勢力に金が流れていれば、たとえ社長、会長の具体的な指示がなかったとしても、経営者はその職を退かざるを得ない状況に追い込まれる。また、いかなる組織体も公表されるとやっかいな問題を抱えている。トラブル処理にあたっては、臭いものに蓋をするではなく、事実は事実として認め、それを踏まえて将来に向けて適切な対応をとることが求められる。その際、トップはいかなる事態になろうとも、逃げない姿勢を堅持することが肝要である。

  4. 昨年末、商法改正が行なわれ、利益供与要求罪が創設された。大阪府警は先月、この規定を初めて適用し、威迫による利益供与要求事件を検挙した。当該企業は、総会屋からの要求を毅然とした姿勢で拒否し、企業としての社会的責任を明確に果たされたものと高く評価するとともに、同じ悩みを持つ多くの企業に大きな勇気を与え、進むべき道を示したものと考える。このように総会屋等との関係遮断に真摯に取り組んでいる企業に対しては、最大限の支援を行なう所存である。
    警察としては、企業発展の基盤である良好な治安の確保のため力の限りを尽くしていく。とりわけ、総会屋等の反社会的勢力の組織犯罪対策を目下の治安の最重要課題として捉え、総会屋等による不法事案の徹底検挙を図りつつ、企業との連携を一層強化して、暴力団や総会屋等の反社会的勢力を企業社会から排除することに実効が上がるよう努力していく所存である。


くりっぷ No.82 目次日本語のホームページ