経団連くりっぷ No.82 (1998年7月9日)

防衛生産委員会(委員長 相川 賢太郎氏)/6月19日

防衛力整備と日米安保体制は国防の両輪

−久間防衛庁長官よりわが国防衛の重要政策課題について聞く


防衛生産委員会では1998年度総会を開催し、97年度事業報告・決算、98年度事業計画・予算、相川委員長の再任等の役員改選を審議し、承認した。当日は久間防衛庁長官および宝槻防衛審議官より、わが国防衛の重要政策課題について説明を聞くとともに懇談した。

  1. 久間防衛庁長官の説明概要
    1. 日米防衛協力のための指針の整備
    2. 日本の安全保障をめぐる環境は以前とは様変わりし、率直な議論ができるようになってきた。わが国は自ら適切な防衛力を整備することはもちろんであるが、合わせて日米安保体制を堅持することが重要である。昨年9月にとりまとめた日米防衛協力のための指針、いわゆるガイドラインの見直しを実効性あるものにするため、防衛庁は国内法制整備のための法案等を今国会に提出したが、継続審議となった。

    3. 防衛力整備の推進
    4. わが国の防衛力整備については、自衛隊が必要な装備を備えるだけでなく、それを作ることのできる国力と支援体制が必要である。最近では装備の研究や開発分野での防衛産業の貢献が大きく、今後も民間の力を借りつつ防衛力の充実を図っていきたい。
      一方、厳しい財政状況の中で財政構造改革は避けて通れない問題であり、昨年12月に中期防の見直しを一年前倒しで行なった。また、防衛関連企業には正面装備の繰り延べ等で迷惑をかけたが、長期的に防衛力整備を着実に進めるためには避けて通れない問題であり、理解してもらいたい。

    5. 不確実な安保環境と日米安保体制
    6. わが国が直接攻撃を受ける可能性は少ないが、アジア太平洋地域は不確実、不安定かつ不透明な状況にある。先般、インドとパキスタンが核実験を行なったが、両国は核兵器の運搬手段となる弾道ミサイルの開発も行なってきていると言われており、そのような技術が拡散するとわが国としても安閑とはしていられない。BMD(弾道ミサイル防衛)についても真剣に検討すべきとの意見も高まっている。
      冷戦が終わり、米国とロシアの対立はなくなったが、米国のプレゼンスはアジア・太平洋地域の安定にとり重要である。日米両国は日米安保体制を基軸とし、経済、政治等の分野で協力して課題に取り組んでいく必要がある。今回のガイドラインの見直しも、橋本・クリントン両首脳による「日米安保共同宣言」を受けて行なわれている。今後とも、わが国は適切な防衛力の整備と日米安保体制を車の両輪として、安全保障を考えていきたい。

    7. 防衛交流の推進
    8. 安全保障においては関係国との対話を行ない、不必要な疑念をお互いに持たないようにすることが大事である。私は防衛庁長官就任以来、ロシア、韓国、中国、オーストラリア、ベトナム等の国防の責任者と会合を持った。中国の国防責任者の中には抗日戦の経験のある者もいる。こうした人たちに自衛隊を見学してもらったが、自衛隊は旧軍と異なっており、日本は平和国家として必要な防衛力の整備を行なっていると説明し、そういう感じを受けて帰国してもらえたと思う。防衛当局者の交流は重要であり、今後とも力を入れていきたい。

    9. 取得改革等
    10. 財政状況の厳しい中、防衛庁では装備の取得価格の低減を図る検討を行なっており、防衛庁の取得改革委員会では今月中に検討結果を取りまとめる。その中では、仕様の見直しにより民生品を活用し、ライフサイクル・コストを引き下げることも提案している。また、民間がコストを下げる提案を行なった場合には、その努力が報われるような制度にしていきたい。
      最後に、過去の装備品の調達で過払いの事案が問題となっているが、このようなことがあると防衛調達の全てが疑惑の目で見られてしまう。現在、民間の有識者も入れた委員会で対策を検討している。

  2. 宝槻防衛審議官の説明概要
    1. 日米防衛協力のための指針見直しの背景
    2. 平成7年の防衛計画の大綱の策定後、日米安保体制をどうするかという課題が残されていた。冷戦後、抑えられてきた紛争が勃発しており、これは事前に予測することが難しいという特徴を持つ。このような状況に対応するためには、今までの日米安保体制では不十分であり、情報収集、紛争の事前防止や信頼醸成で平素から日米が協力していくことが重要である。
      ガイドラインにおける周辺事態とは、日本の平和と安全に重大な影響を与える事態のことである。これは予測しえない事態であり、一定の地域を想定する方法ではない。このような不確実な事態に対し、日米共同でどう対応するか仕組みを決めておく必要が出てきた。憲法の範囲内でどういう行為が必要かつ可能であるか整理を行ない、国内法上の手当てを行なうために政府のガイドライン関連法案を閣議決定した。周辺事態の安全確保法案には、現行法で対応できない米軍に対する後方地域支援、船舶の検査、捜索・救難等が含まれている。防衛庁では、閣議決定の後に、政府の手続き規程を盛り込んだ基本計画を作り、法案の形で提案している。また、合わせてACSA(日米物品役務相互提供協定)および自衛隊法の改正案を提出しており、次期国会での法案通過を期待している。

    3. BMDと情報能力の向上
    4. BMDについては4年間の研究調査を行なってきた。インド、パキスタンの核実験は核不拡散の既存の体制が機能しなくなるという問題を孕んでいる。弾道ミサイルを無力化するBMDは、日本の安全保障上も重要な課題であると考える。現在、技術的に可能かどうかの調査をしているところだが、日本も最先端の技術を有しており、一定の関与を行なう必要がある。
      また、情報能力については、昨年、情報本部を作り、情報分析能力の向上を図っている。インド・パキスタン、中国への対応においても、情報面での分析のニーズは高い。同時に、情報収集能力も高めていきたい。また、インドネシアなど東南アジア情勢を分析する上で、各国の軍事組織の持っている情報は重要であり、防衛駐在官等を通じてそのような情報の収集にも努めていきたい。


くりっぷ No.82 目次日本語のホームページ