経団連くりっぷ No.83 (1998年7月23日)

第555回常任理事会/7月7日

ビッグバンを迎えたわが国証券市場について
山口東証理事長より聞く


常任理事会では、東京証券取引所の山口理事長から、「ビッグバンを迎えたわが国証券市場」について話を聞いた。

  1. 日本版ビッグバン:フィールドの整備
    1. わが国証券市場ならびに実体経済の低迷をひとつの契機として、国際競争力を備えた活力ある市場を復活させるために、日本版ビッグバンが実施されることになった。これを法的に裏付ける金融システム改革法が6月に成立、12月に施行されるが、これに伴い、いよいよビッグバンが本格化する。

    2. ビッグバンによって、それまでの保護的・閉鎖的とも言われた枠組みから競争を前提としたより自由で開放的な制度へと変化することになる。委託手数料の自由化のみならず、市場構造も大きく変わろうとしている。取引所集中義務が撤廃される一方、取引所以外のコンピュータを利用した代替的取引システムが認められ、また、従来、取引所市場の補完的市場と位置づけられてきた店頭市場は、取引所と並列の位置づけが与えられるなど市場間競争が国内でも本格化することになる。こうした流れを踏まえ、東証においても、大口取引・バスケット取引の立会外市場を創設するとともに、立会場の取引の一層の機械化を行なったところであるが、今後も、立会場の問題も含め、さまざまな検討を進めていきたいと考えている。さらに、例えば上場会社の1・2部区分等の上場制度あるいは東証の組織など、一層の改革に向けて中長期的な課題についても検討を行なっているところである。

  2. 東証にとってのビッグバン
    1. ビッグバン後においても東証はセントラル・マーケットとしての役割を担っていかなければならない。いかに市場間競争が本格化しようとも、セントラル・マーケットにおける公正で透明な価格形成の持つ重要性に変わりはない。また、そのためには、流動性という需給の厚みの確保が絶対要件である。豊かな流動性から生まれる公正で透明な価格の確保は、資金の適正配分、すなわち企業の資金調達の観点からも不可欠であり、東証がこうした役割を担っていくことは国民経済的にも求められている。

    2. 東証としても、競争力を強化すべく、コストの低い、使い勝手の良い市場を目指し、そのための施策も法令の制定や改正を待たずにできるものは可能な限り実施している。一方、取引の安全性や公正性の確保といった公共的機能が今まで以上に重要になってくる。市場監視、売買審査、ディスクロージャーの推進等の公共的機能は、セントラル・マーケットの本質部分であり、効率性の追求だけではなく、信頼性の高いマーケットを維持していくという使命を十二分に果たしていきたい。この公共性によってもたらされる高い信頼性こそ取引所市場のみが提供し得る最大の強みである。そのために何よりも必要なのは、信頼性のある市場を維持・強化することが、国民経済上最も肝要であるという認識を、企業をはじめとする市場関係者、社会全体が持つことである。

  3. コーポレート・ガバナンス:株主重視の経営
    1. 日本版ビッグバンを真の成功に結びつけるためには、こうした改革だけではなく、投資対象そのものの魅力を高める必要がある。これに関連して、最近は、コーポレート・ガバナンスに関する議論が活発に行なわれている。コーポレート・ガバナンスの本質はいかに経営の効率化を図るかということに尽きる。他のステークホルダーの意義を否定するものではないが、最も重要なのは株主重視の経営という視点である。そこで、以下の3点について改めてお願いしたい。

    2. 第1に、ディスクロージャーについてである。投資者の自己責任を前提とした市場メカニズムが貫徹する市場の確立と、正確でタイムリーなディスクロージャーとは表裏一体のものであり、特に、市場がささいな風説によって変動しやすい現状においては、このことはなお一層重要性を帯びてくる。これまでにも増して、適時適切な情報開示をお願いしたい。また、本年3月期の決算発表の状況を見ると、5月22日に298社が発表しており、昨年ピーク時の214社と比較しても著しい集中化を示している。投資者に対する適切な情報開示を確保する観点からも、決算発表の早期化・分散化について改めてご理解・ご協力いただきたい。
      なお、国際的な動向としては、時価会計の導入を柱とした国際会計基準について、本年中にも取りまとめが行なわれる予定である。これに呼応して、わが国でも企業会計審議会において時価会計の導入の方向が打ち出されている。発行会社においては、グローバル・スタンダードという観点からも、こうした動きに対する積極的な取り組みをお願いしたい。

    3. 第2に、ROE重視の経営である。厳しい経営環境の下に置かれていることは十分承知しているが、株主重視の立場から、より一層効率的な資金の活用と収益力の向上が求められている。また、ROEの向上という観点からは、自己株式の消却も重要なポイントである。本年3月の商法特例法の改正により、資本準備金による自己株式の消却が可能となったこともあり、6月末までに延べ123社が実施あるいは実施の決定をしている。また、株式の消却を可能とする定款変更については、927社もの上場会社が実施している。こうした動きは株主にとって大変望ましいものであり、株式持合いの解消の受け皿としての期待もある。引き続きご検討をお願いしたい。

    4. 第3に、株主総会の特定日への集中化の改善についてである。本年については、若干分散化の動きが出てきたが、3月期決算の上場会社について見ると、本年も6月26日に株主総会を開催した会社が9割を超えており、改善にはまだ程遠い状況である。総会日時の分散化は株主重視の姿勢の表れのひとつであり、ご配慮いただきたい。

    5. 東証としても、より望ましいコーポレート・ガバナンスの確立のために、何ができるのか、米英の例も参考にしつつ、検討を進めていきたい。


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