経団連くりっぷ No.83 (1998年7月23日)

アジア・大洋州地域委員会(委員長 熊谷直彦氏)/7月7日

早期自主的分野別自由化が合意に至らず

−APEC貿易大臣会合について


APEC貿易大臣会合が、6月22日、23日の両日、マレーシアで開催された。本会合では、優先9分野の自由化の進め方をめぐり、合意に達することができず、日本が孤立したと伝えられている。そこで、本会議に参加した外務省の渋谷 實審議官と通産省通政局経済協力部の関 成孝アジア太平洋地域協力推進室長から、本会合の模様等について聞いた。

  1. 渋谷審議官説明要旨
  2. 貿易大臣会合では、主に、昨年11月のAPECバンクーバー会議において特定された早期に自由化を進める優先9分野(環境、エネルギー、玩具、宝石、化学、医療機器、水産物、林産物、テレコミ相互承認)の取扱いが議論された。
    日本は、品目の選択の自由に加え、ウルグアイ・ラウンド合意以上の関税措置が困難な林産物、水産物を念頭において、円滑化措置、経済技術協力措置への参加で早期自主的自由化(EVSL)に対応ができるよう、措置の選択の自由も必要と主張した。しかし、米国、カナダ、ニュージーランド等は、優先9分野および措置の3要素(自由化措置、円滑化措置、経済技術協力措置)すべてへの参加を求めるパッケージ論を主張し、唯一の柔軟性として、実施期間の延長のみを認める立場をとった。ASEAN諸国は、今後の成長の活路を輸出に求めていることもあって、どちらかというとパッケージ論を支持した。また、中国、韓国、台湾は、優先9分野すべてで何らかの関税引下げ措置が可能であったため、日本だけが孤立する形になり、合意に達することができなかった。
    分野別自由化をめぐる議論をみる限り、APECがWTOのような交渉の場になりつつある。この傾向は、APECの自主的自由化の原則から離れるものであり、問題である。

  3. 関室長説明要旨
  4. APECの原則は自主的自由化である。しかし、米国は、議会が「他国も従うなら、アメリカも従う」とのスタンスをとっていることもあり、WTOにおけるような合意による自由化を強く望んでいる。一方で、米国は、繊維など自由化に消極的なセクターには触れず、「良いとこ取り」とも言える。
    APECの基本は、地域の発展のために真に有効な協力策を検討することである。その点から考えると、林産物や水産物の自由化に固執すべきかとの議論もありうる。こうした品目の税率は、すでにかなり低くなっており、林産物のわが国への輸入浸透率は8割超、水産物のそれも、政治的に困難な分野であるにも拘わらず5割である。APECの議論は、このような実態への配慮に欠けている。


くりっぷ No.83 目次日本語のホームページ