経団連くりっぷ No.83 (1998年7月23日)

第22回日本メキシコ経済協議会第1回事務レベル打合会/7月9日

崩れゆくメキシコの一党支配体制


11月中旬に東京で開催予定の第22回日本メキシコ経済協議会に向けて、第1回事務レベル打合会を開催した。当日は、外務省中南米局の越川中南米第二課長より、最近のメキシコの政治情勢につき説明を聴取した。越川課長は、与党制度的革命党(PRI)が進めてきた自由で開放的な経済政策が同党の権力基盤を揺るがし、60数年来続いてきた一党支配体制が崩れつつあると述べた。

  1. PRI体制の崩壊
  2. 97年7月の中間選挙は、メキシコの内政を見る上で重要な選挙であった。この選挙で、60数年にわたり事実上の一党支配を維持してきた制度的革命党(PRI)の体制が崩壊しつつあることが明らかになったためである。
    この背景には、PRIの支配体制がメキシコの社会構造の変化に対応できなくなったことがある。82年の債務危機の後、デラマドリ政権はそれまでの輸入代替政策を捨て、ネオリベラリズムに基づく自由開放経済への転換を図り、これがサリナス、セディージョ政権にも引き継がれた。その結果、マクロ経済指標が改善した反面、弱肉強食の傾向が強まり、貧困、失業、治安の悪化など社会にマイナスの影響が生じた。
    こうしたなか、PRIの支配を支えてきた三部会制度が機能しなくなった。労働部会は労働形態の多様化に伴いまとまりを失い、農民部会は共同農地制度の廃止、NAFTAの下でのトウモロコシ輸入の自由化などの政策をとるPRIに対し支持の理由を失った。一般部会を構成する中流階級は、82年、94年の2度の経済危機で深刻な打撃を被り、PRI離れを起こしている。
    このように、80年代からPRIが進めてきた政策の結果が、同党の権力基盤を崩壊させつつあるという矛盾が生じている。

  3. 次期大統領選に向けた各党の動向
  4. 97年7月以降に実施された州知事選の結果を見ると、PRIは地方でそれなりに根強い力を発揮している。これに対し、中道右派の国民行動党(PAN)が意外に不振で、PRIから分離した民主革命党(PRD)が健闘している。これは中道左派のPRDが社会政策により重点を置くものと期待されたためと見られる。
    2000年に次期大統領選挙が実施されるが、PRI内部には守旧派である党人とテクノクラートの確執が存在し、誰が大統領候補となるかまったくわからない。PANには保護主義政策の終了とともにPRIを離れた企業家を中心とするネオ・パニストと呼ばれる一派がおり、伝統的な勢力と対立している。PRDも、PRIからの分離派のほかにメキシコ共産党を含むなど、一枚岩になりにくい。昨年、メキシコ連邦区知事に当選したカルデナス氏の今後の実績が、PRDの将来を左右すると見られる。


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