経団連くりっぷ No.83 (1998年7月23日)

国際協力プロジェクト推進協議会(会長 春名和雄氏)/6月19日

官民連携による対外経済協力の推進に向けて


国際協力プロジェクト推進協議会では、第9回定時総会を開催し、1997年度事業報告、収支決算および1998年度事業計画、収支予算につき審議、承認した。引続き来賓の大島賢三外務省経済協力局長より「わが国ODAの現状と課題」について説明を聞いた。以下はその概要である。

春名会長 外務省 大島経済協力局長
春名会長外務省
大島経済協力局長

  1. わが国ODAの現状
  2. 財政構造改革に伴うODA予算の削減、円安の影響もあって、ドルベースでみるわが国ODAの現状は厳しい。そのような中で97年度のわが国ODA実績値は93.6億ドルと7年連続世界一を維持した。しかし内訳を見ると、二国間ODAは対96年度比で11.2%減少し、たまたま国際開発金融機関の増資の時期に当ったため同拠出金が対前年度比で153.2%増大したというのが実状である。なお、対GNP比では0.02%となっており、DAC(OECDの開発援助委員会)21カ国中19位と低位に止まっている。

  3. アジア経済危機とわが国経済協力
  4. 昨今のアジア経済危機のため、わが国経済協力も内容面で変革を迫られている。特に経済状況が深刻なインドネシアについては無償による食糧支援、社会的弱者支援に力を入れていく方針である。また、有償資金協力については従来のプロジェクト・ローンからセクター・プログラム・ローンへと比重を移していきたい。さらに、本年も7月に開催予定の「インドネシア支援国会合」の席で98年度の支援策を提案する予定である。
    インドネシア以外のASEAN諸国、すなわちタイ、フィリピン、そして最近ではマレーシア、ヴェトナムも経済危機の影響を受けている。これら諸国に対する支援にも引続き力を入れていきたい。支援に当っては、ASEAN発足30周年を記念して設立された「ASEAN基金」の活用が考えられる。同基金を、特に二国間援助ではカバーできない広域開発(例えばメコン河流域開発)、あるいは人材育成等に活用し、その際は民間セクターのノウハウを反映させていくことが期待されている。なお、同基金に対してわが国は2,000万ドル拠出する旨決定し、予算措置もすでに取られている。

  5. インド・パキスタンの核実験とODA
  6. 先般強行されたインド・パキスタンの核実験に抗議すべく、わが国としては両国に対する新規の無償、有償援助を停止する旨決定した(ただしBHN:Basic Human Needsを除く)。これはバーミンガムサミットにおける8カ国の合意にも沿ったものである。確かに一部には新規のみならず現行のものをも含めてODAを全て中止するという考えもあったが、わが国とインド・パキスタンとの関係は核不拡散のみではないという点に鑑み、新規のみについて中止の措置を取った。

  7. JAIDOとの連携
  8. JAIDOは途上国における国際協力型プロジェクト形成のために官民連携で創設され、今年で10年目を迎える。今後とも民活インフラ案件などJAIDOの参加が見込まれる事業に関する開発調査を推進するなど、案件の発掘・形成段階から緊密な連携をとっていくことが重要と考えている。加えて、ODA技術協力予算を活用した「民間セクターアドバイザー専門家派遣」に際して、経営・投資のノウハウなど民間企業ならではの技術・知見を有するJAIDOの人材に積極的に協力して頂くことも重要であると考える。
    なお、JAIDOと外務省とでは、定期協議を通じて官民連携による効率的な国際協力の方法を常に模索している。

  9. ODA基本法
  10. 今回の参議院選挙終了後、ODA基本法案が議員立法という形で国会に提出される運びとなっている。確かにODAが転換期を迎え、ODAと国民との関連が問われている今日、国民の代表機関たる国会がODA基本法を制定し、その過程において具体的な議論がなされることは意義深い。しかし、国会における一連の審議を通じて、あまりにも厳格な法が制定されるならば、タイムリーかつ効率的な対外援助を行なうにあたって弊害となる恐れもなしとしない。また、同法に基いてODAを実施する場合、内閣法制局による解釈に基づいた行動が要求され、専門性の高いODAが内閣法制局の法解釈によって左右されるという不都合が生じかねず、この点でも懸念を否めない。いずれにせよ、ODA基本法が効率的な対外援助に資するものであることを願ってやまない。

  11. ODAに関する情報公開
  12. 最後に、ODAは民間セクターの参加なくしては絶対に成立しえない。よって民間セクターの理解を得るためにも、今後ともできる限り情報公開をしていく所存である。近いうちに国会において情報公開法が成立する運びである。これを契機に「相当細かいところまで情報を公開していく」というスタンスを大切にしていきたいと考えている。


くりっぷ No.83 目次日本語のホームページ