経団連くりっぷ No.84 (1998年8月27日)

経団連提言/7月21日

「国民が信頼できる公的年金制度の再構築」を公表


現在、年金審議会では、来年の年金制度の財政再計算に向けて、公的年金制度の改革の議論が進んでおり、今年9月にも意見書がとりまとめられる予定である。今回の提言は、1996年12月に公表した「透明で持続可能な年金制度の再構築を求める」を踏まえて、より具体的な提案をまとめたものである。以下は提言の概要である。

  1. 公的年金制度改革の必要性
  2. 現行の公的年金制度は、

    1. 厚生年金制度では、報酬比例部分に350兆円の積立不足が存在し、現行の給付水準を維持すれば保険料率を将来34.3%まで引き上げざるを得ない、
    2. 国民年金制度では、大量の未納・未加入者の存在や国民年金が本来負担すべき基礎年金拠出金の一部を厚生年金や共済組合が負担している、
    など、極めて深刻な問題を抱え、国民の間に公的年金制度に対する不安や不信感が高まっている。今後、わが国は急速に少子・高齢化が進んでいくが、公的年金制度も持続可能で安定的な制度となるよう、抜本改革する必要がある。それと同時に、自助努力としての企業年金、個人年金の充実も求められる。
    また、政府は共済年金を含め公的年金に関する情報開示を徹底すべきである。

  3. 提言のポイント
    1. 提言の基本的考え方
      1. 社会・経済の変化に耐えられる持続可能な制度の構築、
      2. 公的年金の位置づけの明確化と私的年金の充実、
      3. 財政改革・税制改革と一体での議論、
      という3点を公的年金制度改革の基本的考え方としている。

    2. 具体的改革の方向
    3. 具体的改革の方向として、基礎年金部分と報酬比例部分の峻別と財源方式の見直しを柱に据え、以下をポイントとしている。

      1. 基礎年金部分
        基礎年金部分は、国が高齢者の最低限の生活保障を行なうという目的に沿って、税による賦課方式へ移行する。その際、国民全体で負担を分かち合うという観点、経済の活性化に対する影響を考慮すれば、その財源は間接税が望ましい。これにより、未納・未加入者問題の解決を図ることができる。
        給付水準は当面、現行水準を維持し、将来的にはナショナルミニマムの水準を勘案しつつ引き上げも考えられる。

      2. 報酬比例部分
        報酬比例部分は、基礎年金部分の上乗せとして、現役時代の生活水準の一定割合を確保するのが目的であり、自助努力型の性格の強い年金制度と位置づけ、積立方式に移行し、最終的には民営化するが、巨額な積立不足の問題、現役世代の所得との比較からみても、給付水準の引き下げはやむを得ない。
        報酬比例部分の改革の手段として、1.当面、現行制度の枠組みを維持する、2.積立不足を切り離して、新たな積立方式の制度としてスタートする、3.一部を企業年金に吸収・統合する、ことが考えられるが、いずれにしても、積立不足の処理は給付水準の引き下げと、追加的な保険料負担または税負担に求めざるを得ないと考える。

    4. 年金税制の見直し
    5. 年金税制は拠出時・運用時非課税、受給時課税を徹底し、公的年金等の収入だけに適用される公的年金等控除については縮減する方向で見直す必要がある。

    6. その他
      1. 社会保障制度間の併給調整
        年金給付とその他社会保障給付との間の併給調整措置を講じる。

      2. 第3号被保険者問題と遺族年金制度の改善
        基礎年金部分を間接税方式とすれば、専業主婦の保険料負担問題についての議論の余地はなくなる。
        また、就業主婦に係る遺族年金を改善し、自らの老齢厚生年金が掛け捨てにならないように制度内容を変更する必要がある。

      3. 総報酬制の問題
        ボーナスは大きく変動するため、年金財政の不安定化の懸念がある。

      4. 国際間の年金通算協定の早期締結
        在留邦人が最も多い米国についても、早期に政府間交渉を開始すべきである。

以 上


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