産業問題委員会(委員長 瀬谷博道氏)/7月27日
経団連では、5月26日の定時総会において、産業問題委員会(委員長:瀬谷博道旭硝子会長)を設置した。7月27日には、その第1回会合を開催し、東海大学の唐津一教授より、日本の製造業の競争力の現状と展望を中心に説明を聞くとともに、今後の検討の進め方等について討議した。
最近の日本経済に対するマスコミの見方は暗いものばかりである。「このままでは、日本発の世界恐慌すら起こりかねない」などと不安を煽るエコノミストも少なくない。こうした悲観的な見方が消費者心理を過度に冷やし、個人消費が抑制され、日本経済は不況に喘いでいる。しかし、日本経済のファンダメンタルズは決して悪くない。
日本経済のファンダメンタルズを下支えているのは製造業の高い技術力に他ならない。日本の製造業には、世界でもトップの座にある業種が数多く存在する。
新製品を作り出すためには、研究開発が欠かせないが、過去30年間で日本の製造業の研究開発費は約10倍に増えた。この研究開発の成果は数字となって表れている。例えば、97年に米国で成立したパテント数が多かった企業上位10社のうち7社は、日本企業である。また、かつて日本の技術貿易の収支は赤字であったが、93年には黒字に転じており、95年の日本の技術貿易額の受取額対支払額は1.4倍に達している。
このように製造業による研究開発への永続的な取組みがある限り、日本経済の先行きを心配する必要はない。
過去10年間の日本の輸出をみると、85年には家電、自動車など耐久消費財が中心であったが、現在は半導体や機械など資本財が非常な勢いで伸びている。米国内には、日本に貿易黒字の削減を求める声が相変わらず強いが、輸出の中心が資本財である限り、日本の貿易黒字が減ることはない。日本が輸出を減らすことは、そのまま米国の工場を停止させることに繋がりかねないからだ。
また、日本の製造業の海外生産額は、97年に47兆円に達した。これは韓国のGDPを上回るものだが、海外生産の増加に伴い日本企業の海外における雇用者数も増加しており、96年には300万人に達している。かつて日本の製造業は、「失業を輸出している」と言われたが、最近は「雇用を輸出する」ようになったのである。例えば、米国では1,700もの工場を設置し、63万人の従業員を雇用している。
製造業の技術力が世界一の水準を誇り、経済のファンダメンタルズが強くても、290兆円という巨大な個人消費を活性化しなければ、景気の本格回復は実現しない。では個人消費をいかに掘り起こしていくのか。原理は簡単である。「売れるようにすれば売れる」ということである。
某ラジオ局は、FM放送の電波の中にデジタル信号を入れてニュースや天気予報を文字で流すラジオを開発したが、当初はまったく普及しなかった。ところが、タレントの日々の活動の情報を流すというアイデアを取り入れたところ、年間200万台のヒット商品になった。また、某電機メーカーはフラットタイプのテレビを製造したが、他社の製品よりも割高であっても、予約待ちの状態になっている。消費者の感度に合致した商品を作れば、成熟商品と言われるラジオ、テレビでも売れるのである。
今後の委員会の検討の具体的な進め方等について討議し、次の事項が確認された。