経団連くりっぷ No.84 (1998年8月27日)

ソンポップ タイ産業構造調整委員長との懇談会/7月17日

産業構造調整計画は着実に実施する


タイ政府は、経済の成長回復を図るための中長期的な課題として、製造業における産業構造調整に取り組んでいる。そこで、産業構造調整計画の策定に尽力し、現在もその実施に際して中心的役割を果たしているソンポップ・アマタヤクン産業構造調整委員長より、産業構造改革に向けたタイの努力について説明を聞いた。

  1. 計画策定の目的
  2. ソンポップ委員長

    かつてタイの魅力は、低賃金にあった。しかし、これはもはや過去のものであり、衣類製造等の労働集約的な産業では、輸出が大きく落ち込み、国際的な競争力が失われている。幅広い層からタイの産業の弱点を聴取したところ、

    1. 生産性の低さ、
    2. 企業家の経営ノウハウ等の不足、
    3. 労働力の熟練度の低さ、
    4. 裾野産業の未成熟、
    等が挙げられた。経済危機からの脱却を目指す中で、生産性や競争力を向上させるために、産業構造調整計画を策定・実施することは必要不可欠である。

  3. 計画策定の経緯
  4. これまでのタイには、明確で継続的な産業政策が欠けていた。そこで、工業省を中心にまずは産業構造調整計画の概念的な枠組みを取りまとめ、その後、計画のマスタープランを策定した。マスタープランでは、国際競争力の強化と社会状況改善のための産業の役割の増大を主たる目標に掲げ、製造コストの削減や納期の短縮化を通じた競争力向上や労働者の技術レベルの向上、中小企業の育成と強化といった8つのプログラムを策定した。そのうえで、関連する他の省庁や民間経済界等、幅広い層の多くの人々の参画を得て、各プログラムの具体的な実施要項(アクションプラン)を作成した。計画は、実施されなければ意味がないからである。まずは13の業種について業種別の戦略を取りまとめ、その後、経済担当省庁を巻き込んで具体的なアクションプランを練った。その過程において、日本政府や民間経済団体、各種研究機関、労働組合、消費者団体、マスコミ等の関係者、ならびに盤谷日本人商工会議所を通じて、日本企業関係者の参画も得た。このアクションプランは、本年6月16日に閣議承認された。

  5. 計画実施のための資金手当て
  6. 以上の計画を実施するため、今後5年で毎年2〜3億ドル、計約11億ドルが必要となる。これは主に、世界銀行やアジア開発銀行から借り入れたソフト・ローンからあてる。タイは、短期的には金融システムの再建問題等に取り組んでいるが、実体経済の改善にも取り組まなければ経済成長の回復は見込めない。ぜひこのアクションプランが着実に実行されるよう、日本の官民の一層の協力を得たい。


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