経団連くりっぷ No.84 (1998年8月27日)

防衛生産委員会(座長 西岡喬総合部会長)/7月29日

転換期を迎えたわが国の防衛装備行政

−及川防衛庁装備局長より今後の防衛装備行政の展望について聞く


防衛生産委員会では、防衛庁の及川耕造装備局長を招き、今後の防衛装備行政の課題と展望、および防衛庁の取得改革委員会が6月末に取りまとめた「取得改革委員会報告書」の概要と今後の施策について説明を聞くとともに懇談した。

  1. 及川装備局長の説明概要
    1. 防衛装備調達の改革
    2. 防衛装備行政の最近の重要課題は、装備調達についての昨今の報道を踏まえ、国民の信頼を回復していくことである。防衛装備品の調達においては、随意契約が多く、競争が働かないという事情があり、価格決定のメカニズムが一般に解りにくい。また、装備が高価格になっている背景には、マーケットが防衛庁に限られ、その規格も特殊であるという事情がある。
      今後、国民の理解を得るためには、装備品の価格削減に努力していく必要がある。防衛庁の調達実施本部では、「有識者による調本の21世紀プロジェクト委員会」を設置して検討を行ない、調達システムの改革について中間的的な提言をとりまとめている。
      また、防衛庁の「取得改革委員会」においても報告書をとりまとめ、装備品のライフサイクルコストの削減、防衛庁の独自の規格・仕様の見直し、汎用の規格・仕様の拡大等を提言している。さらに、5年かけて10%のコスト低減を実施することも提言している。限られた予算を有効に使っているかどうか、改革の実績が外からも見えることが重要である。

    3. 防衛予算減少への対応
    4. 防衛装備の調達予算が減少する中で、中長期的な対応策のひとつが取得改革である。短期的には、先般、防衛予算としては初めて補正予算がついたものの、来年度予算では、過去2年間の繰り延べの延長、装備の定期検査の間隔の延長、円安に振れている為替レートへの対応といった課題がある。特に、為替レートは昨年に比べて20%以上も円安となっており、数百億円の変動が生じる。
      このような状況の中で修正中期防を達成するためには、新規正面装備や整備等の後方を切り詰める必要がある。現在の趨勢では後方の予算が正面装備を上回る状況にあり、新規正面装備の調達が困難になる。また、米国から輸入したAWACSやイージス艦システムのソフトウェアのメインテナンス費用もコストアップ要因である。
      また、汎用技術により民間と防衛の境界が低くなっている状況を踏まえ、民間のニーズも踏まえた技術開発予算を確保していきたい。企業側においても、汎用品を活用したり、合理化努力を続けてもらい、取得改革の成果を官民で共有できるようにしていきたい。

    5. 防衛生産・技術基盤の弱体化
    6. 防衛装備の生産は、無駄な重複投資を防ぐために武器等製造法の下で認可制度となっている。企業としても需要の有無がはっきりしない装備に投資はできず、一分野一社という供給独占の下での随意契約が中心となっている。米国では2〜3社に新装備の技術開発予算を与え競争させ、1社と契約するという仕組みとなっているが、日本にはそのような潤沢な予算はない。供給独占が適切であるかどうかという問題はあるが、現時点では調達の透明性を確保していくことが重要である。
      また、輸入との関係で、適正な国産化率をどう考えるかという問題がある。平成9年度の防衛装備の国産化率は92%であり、輸入品との競争を通じてコストダウンを図る余地があると考える。一方、武器輸出三原則等を堅持したままで日本の防衛産業の競争力を確保できるかという指摘があるが、これは日本の根本的政治理念に関係してくるもので、簡単には解決できない。
      防衛庁では防衛生産基盤の弱体化について財政当局にも訴えている。一方で、工業全体が低迷する中で防衛生産基盤だけが揺らいでいるとは説明しにくい。危機意識が強ければ、欧米のような防衛産業再編の動きもあるはすだが、日本にはそのような動きはない。防衛関連企業は民需に依存しており、防衛予算の削減が防衛生産基盤にどう影響を与えているかわかりにくい。ミサイルについては、ピーク時から生産が3分の1に減っているが、細々と継続できており、いくつかのプロジェクトも進行している。
      一方、技術基盤については、技術開発予算までがピーク時から3割も減少しており深刻である。防衛庁としては技術実証型の研究開発も行ない、日本としての装備開発能力を維持していくことが必要と考えている。

    7. 日米間の防衛装備技術協力
    8. 4、5年前、ペリー前国防長官の時代には、米国は日本の技術に関心を示し、技術の獲得に動いたが、現在ではその関心は薄れつつある。軍事・民生技術の分野で、日本はもはやライバルでないということだ。
      日米間の防衛装備技術協力については枠組みがしっかりとできており、円滑な関係になっている。F−2支援戦闘機の開発・生産も順調に進んでいる。TMD(戦域ミサイル防衛)は米国でも開発途上の技術であるが、日本側の決断によっては、米国との技術協力においては重要なテーマとなるであろう。

  2. 懇談概要(当会側意見)
    1. 日本企業は防衛生産に対して冷めてきており、防衛離れが懸念されている。国産化率の数字には、民間が輸入する部品やライセンス料等が含まれている。防衛生産・技術基盤がなくなると、外国から高い装備を買わされたり、外交上の取引を要求されることになる。また、外国に技術を握られている場合には、国内開発した装備とは違いコスト・ダウンの努力も自由にはできない。ブレークスルーを要する技術開発を日本で行ない、先に夢があれば企業は今後も防衛生産を継続できる。

    2. 研究開発の停滞が懸念される。民間企業においては、民需部門からの資源投入も行なわれてきたが、不況の長期化により、そうした余裕もなくなってきている。


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