経団連くりっぷ No.85 (1998年9月10日)

地方振興部会(部会長 金谷邦男氏)/8月27日

「新しい公共を担う」

−まちづくりセンターにおけるタウンマネージメントの現状と課題


地方振興部会では昨年来、中心市街地の活性化の問題について検討を進めている。さる7月に施行された中心市街地活性化法では「タウンマネージメント」の仕組みづくりが施策の鍵となっていることから、同部会では、(財)世田谷区都市整備公社まちづくりセンター所長として、市民参加のまちづくりを手がけてきた折戸雄司氏を招き、意見交換を行なった。

  1. 折戸所長説明要旨
    1. 世田谷区と住民参加のまちづくり
    2. 世田谷区の住民参加の歴史は、1970年代に始まる。管理者の責任の問題から禁止事項が多くなっている都市公園では子どもは伸び伸びと遊べない。そこで住民が公園を監視し、子どもの活動を見守る自主管理型の「プレイパーク運動」が始まった。
      75年頃には防災型のまちづくりが始まった。世田谷区は関東大震災の時に農地であったところに避難した人が住みついた所で、消防車の入れない木造密集市街地が多く残されている。住民には高齢者も多い。世田谷区では「住民が提案すればそれを行政が尊重する」ということを旨とする「街づくり条例」を制定し、住民にも責任があることを明記した。住民からは「行政は自らの責任を放棄している」との批判もあったが、やがて住民参加方式は定着した。
      また、清掃工場の煙突のデザインを住民によるコンペで選定するなど、住民が都市のデザインにも関わるように誘導してきた。

    3. まちづくりセンターの役割
    4. 世田谷区全体に良いまちづくりを広げるには、人・物・金が要る。しかもまちづくりは住民発意の下に進めることが基本となっており、行政は支援する立場にある。そこで、区は1992年4月に「まちづくりセンター」を開設し、住民主体のまちづくりの推進をこのセンターに行なわせることとした。同年12月には公益信託「世田谷まちづくりファンド」が行政・住民・企業の寄付によって設立され、この収益金で公開審査を経て、まちづくり活動を支援することになった。
      まちづくりセンターの第1の業務は「住民主体のまちづくり支援」である。住民の活動に技術的なアドバイスを行なうとともに、助成をし、なじまないものには他の財団を紹介している。
      第2は「区の住民参加事業支援」である。区が住民参加で進めるまちづくり事業に対して企画や運営を専門家も参加するワークショップを用いて支援している。まちづくりは本来なら民間コンサルタントが活躍できる分野であるが、現在は住民の実情は知っていても行政に通じていないとか、その逆といった場合が多く、活躍できていない。
      第3は、「まちづくりの調査・研究」、第4は「情報の収集と発信」、第5は「まちづくり学習機会の提供」である。これまで出版事業においては、採算を考えず本を印刷していたが、私は所長就任以来、「版を重ねれば利益になる本」を作るようにしている。
      センターの進める住民参加の方法は、「ワークショップによる合意形成」である。これはもともとは劇団で監督や俳優が話し合いながら舞台を作る手法だが、現在はこのワークショップを運営するファシリテーターが不足している。
      また、まちづくりの専門家や経験豊富な住民によって組織された「まちづくりハウス」を区内各地に置き、地域別、課題別に支援をすることにしている。今般、NPO法が成立し、まちづくりハウスも法人格を取得できるようになり、ようやく組織的な活動の基盤が整った。

    5. 「新しい公共」を担う
    6. 地方自治法には住民自治のあり方については十分な記述はない。しかし書いていないということは「工夫してやれ」ということだと銘じている。現在、TMO(まちづくり機関)の設立が盛んだが、施設先行の感があり、どこの都市でも同じようなものが多い。自治体は地域の特性を踏まえながら、域内でさまざまな人材を育て、彼らとぶどうの房のようにネットワークを結び、さらに自治体間で競争をしていくことが必要である。自治体も、企業の経営に学びながら、高齢化、少子化に伴う新しいニーズを受け止める「新しい公共」として、住民とパートナーシップを結んでいくことが必要である。

  2. 懇 談
  3. 経団連側:
    住民のニーズを集めるのは区議会議員の役割ではないのか。
    折戸所長:
    センターには、議員や行政との間に太いパイプを持つ既存の自治会、町会などではない、別の組織から住民のニーズとして問題が上がってくることが多く、議員の仕事の領域とは一致はしない。しかし問題があれば議員に早めに報告し、問題の解決をそれぞれが目指すように努めている。

    経団連側:
    地元企業の反応はどうか。
    折戸所長:
    区内の企業にアンケートしたところ、活動のメニューが不明、企業がまとまって支援できる仕組みがあるとよい、住民としての社員に働きかけたい、といった意見があった。こうした声を活かしていきたい。

    経団連側:
    話し合いがまとまらない場合は収用権等の発動もあるのではないか。
    折戸所長:
    最後の最後は強権発動しかないであろうが、発動するかどうかはどれだけリスクを負うのかという覚悟の問題である。企業が住民との十分な話し合いなしに強行することのリスクは大きい。われわれは住民にも「企業は違法なことをしているわけではなく、あなたの主張は法律に挑戦する側面もある」ことをアドバイスした上で交渉に臨んでもらっている。いずれにせよ好んで喧嘩をする企業はない。

    経団連側:
    まちづくりセンターは、企業対住民の仲裁には入りやすいだろうが、行政対住民の間には入り難いのではないか。
    折戸所長:
    確かに、行政対住民の間に入ることは難しい。特に問題が起こってからの仲裁は、議論の土台が食い違い、うまくいかない。当事者間の議論をどのように取り入れていくか(道路をつくることを前提として住民の意見を聞くなど)、話し合いの期間をいつまでとするかなどの前提条件を決めてから交渉に臨むことが前提となる。

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