地方振興部会(部会長 金谷邦男氏)/8月27日
地方振興部会では昨年来、中心市街地の活性化の問題について検討を進めている。さる7月に施行された中心市街地活性化法では「タウンマネージメント」の仕組みづくりが施策の鍵となっていることから、同部会では、(財)世田谷区都市整備公社まちづくりセンター所長として、市民参加のまちづくりを手がけてきた折戸雄司氏を招き、意見交換を行なった。
世田谷区の住民参加の歴史は、1970年代に始まる。管理者の責任の問題から禁止事項が多くなっている都市公園では子どもは伸び伸びと遊べない。そこで住民が公園を監視し、子どもの活動を見守る自主管理型の「プレイパーク運動」が始まった。
75年頃には防災型のまちづくりが始まった。世田谷区は関東大震災の時に農地であったところに避難した人が住みついた所で、消防車の入れない木造密集市街地が多く残されている。住民には高齢者も多い。世田谷区では「住民が提案すればそれを行政が尊重する」ということを旨とする「街づくり条例」を制定し、住民にも責任があることを明記した。住民からは「行政は自らの責任を放棄している」との批判もあったが、やがて住民参加方式は定着した。
また、清掃工場の煙突のデザインを住民によるコンペで選定するなど、住民が都市のデザインにも関わるように誘導してきた。
世田谷区全体に良いまちづくりを広げるには、人・物・金が要る。しかもまちづくりは住民発意の下に進めることが基本となっており、行政は支援する立場にある。そこで、区は1992年4月に「まちづくりセンター」を開設し、住民主体のまちづくりの推進をこのセンターに行なわせることとした。同年12月には公益信託「世田谷まちづくりファンド」が行政・住民・企業の寄付によって設立され、この収益金で公開審査を経て、まちづくり活動を支援することになった。
まちづくりセンターの第1の業務は「住民主体のまちづくり支援」である。住民の活動に技術的なアドバイスを行なうとともに、助成をし、なじまないものには他の財団を紹介している。
第2は「区の住民参加事業支援」である。区が住民参加で進めるまちづくり事業に対して企画や運営を専門家も参加するワークショップを用いて支援している。まちづくりは本来なら民間コンサルタントが活躍できる分野であるが、現在は住民の実情は知っていても行政に通じていないとか、その逆といった場合が多く、活躍できていない。
第3は、「まちづくりの調査・研究」、第4は「情報の収集と発信」、第5は「まちづくり学習機会の提供」である。これまで出版事業においては、採算を考えず本を印刷していたが、私は所長就任以来、「版を重ねれば利益になる本」を作るようにしている。
センターの進める住民参加の方法は、「ワークショップによる合意形成」である。これはもともとは劇団で監督や俳優が話し合いながら舞台を作る手法だが、現在はこのワークショップを運営するファシリテーターが不足している。
また、まちづくりの専門家や経験豊富な住民によって組織された「まちづくりハウス」を区内各地に置き、地域別、課題別に支援をすることにしている。今般、NPO法が成立し、まちづくりハウスも法人格を取得できるようになり、ようやく組織的な活動の基盤が整った。
地方自治法には住民自治のあり方については十分な記述はない。しかし書いていないということは「工夫してやれ」ということだと銘じている。現在、TMO(まちづくり機関)の設立が盛んだが、施設先行の感があり、どこの都市でも同じようなものが多い。自治体は地域の特性を踏まえながら、域内でさまざまな人材を育て、彼らとぶどうの房のようにネットワークを結び、さらに自治体間で競争をしていくことが必要である。自治体も、企業の経営に学びながら、高齢化、少子化に伴う新しいニーズを受け止める「新しい公共」として、住民とパートナーシップを結んでいくことが必要である。