経団連くりっぷ No.86 (1998年9月24日)

8月31日

株式保有、合併等に係る「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」の考え方(原案)に対するコメントを公正取引委員会に提出


公正取引委員会では、独占禁止法第4章全般に亘る合併等企業結合規制を見直す独占禁止法改正がさる5月22日に成立したのを受け、新たなガイドラインの原案として、6月18日、株式保有、合併等に係る「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」の考え方(原案)(以下、「原案」という)を公表し、8月31日を締切として、意見照会を行なった。経団連では、これを受け、競争政策委員会において、同「原案」について検討を行ない、これまでの企業結合規制に関する意見書にそって、下記のコメントを公正取引委員会に提出した。以下はその概要である。


株式保有、合併等に係る「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」の考え方(原案)に対するコメント(概要)

(前文)

先の通常国会で成立した第4章全般に亘る企業結合規制を見直す独禁法改正を実りあるものとするために、これまでの経団連意見にそって、「原案」の修正を求める。
経済のグローバル化の進展に伴い、企業は、国際競争力を維持・強化するために、国境を越えた結合関係を形成することが必要となっており、アメリカ、EUでは、このような世界的な企業再編の流れを考慮した競争政策の運用がなされている。公正取引委員会には、下記と併せ、国際競争および海外競争当局における運用状況を勘案した独禁法の運用を強く求めたい。

  1. 100%子会社設立
  2. 既存業務の分社化であるか、新規事業参入のための子会社設立であるかを問わず、100%子会社の設立であれば、結合関係が新たに形成・維持・強化されることはないとすべきである。
    また、企業グループによる100%子会社設立(同一グループ内企業によって、新設会社の発行済株式の全部が設立と同時に取得される場合)も、結合関係が形成・維持・強化される場合に当たらないものとすべきである。

  3. 株式所有比率が25%超50%以下の場合
  4. 現行株式所有ガイドライン同様、株式所有比率が25%超50%以下の場合について、単独筆頭株主であるか否か以外の事項も考慮して結合関係が形成・維持・強化されるか否かを判断することとすべきである。

  5. 共同出資会社
  6. 現行株式所有ガイドライン同様、共同出資会社においては、株式所有会社と他の出資会社が競争関係にある場合に限り、株式所有比率等を考慮した上で、結合関係の有無を判断すべきである。
    また、共同出資会社における「競争を実質的に制限することとなる場合」の判断について、共同生産会社、共同販売会社、共同購入会社等の類型毎に、評価の要素、基準を示し、併せて、ホワイト・リストも示すべきである。

  7. 兄弟会社間の合併・営業等譲受け
  8. 合併・営業等譲受け当事会社のそれぞれの発行済株式総数の50%超を有する会社間(兄弟会社間)の合併・営業譲受等は、競争への影響をみるべき企業結合に当たらない場合とすべきである。
    また、企業グループ内における合併・営業等譲受けについては、結合関係が形成・維持・強化される場合に当たらないものとすべきである。

  9. 株式所有比率が10%超の場合
  10. 株式所有比率が10%超50%以下の場合には、現行の株式所有ガイドラインと同様、株主順位が第1位の場合又は株主順位が第3位以内で当事会社が競争関係にある場合に限り、その他の事項(現行株式所有ガイドライン〈第二-2-(2)〉参照)を考慮した上で、結合関係が形成・維持・強化されるか否かの判断の対象とすべきである。

  11. 組織変更および額面株式一株の金額を変更する目的で行う合併
  12. 「原案」は、競争への影響をみるべき企業結合に当たらない場合として、組織変更および額面株式一株の金額を変更する目的で行う合併を挙げているが、100%出資関係にある会社間又は出資者構成及び出資比率が同一の場合であって存続する会社が営業を行っていない場合に限るとの要件を課している。しかし、出資関係については、「ア 親子・兄弟会社間の合併」として捉えればよく、また、存続する会社が全く営業を行っていない場合に限る必要はない。したがって、この要件は削除すべきである。

  13. 事前届出を要する営業等譲受けにおける「重要部分」
  14. 事前届出を要する営業等譲受けについて、改正独禁法第16条第2項および改正独禁法施行令第16条における届出についての裾切り要件(営業の全部譲受については総資産が10億円以下、営業の重要部分又は営業上の固定資産の全部又は重要部分の譲受については売上高が10億円以下)を勘案し、裾切り要件を設けるべきである。

  15. 合併・営業等譲受けの審査に係る報告等の請求
  16. 改正独禁法第15条第5項および第16条第5項において、公取委の審査期間について、請求に基づき公取委が報告等を受理した日から90日以内とされているが、報告等の具体的な範囲、報告等が必要な理由、報告等の受理後結論を出すまでの期間等を文書により明確に示した上で、報告等の請求を行うべきである。また、この報告等の請求に不服な場合の手続を、整備すべきである。

  17. 具体的な企業結合の例の提示
  18. 具体的な企業結合の例において、競争への影響を考慮した要素の全体が示されておらず、そのためかえってわかりにくくなっている面がある。具体的な例を挙げるのであれば、競争への影響を考慮した要素とその判断の背景にある運用基準も併せて示すべきである。

  19. 寡占的市場の定義
  20. 「原案」は、「いわゆる寡占的な市場」を「上位3社累積シェアが70%を超える場合等」と定義しているが、「等」の内容について明確化すべきである。また、当事会社以外の競争会社の数等の数値基準も盛り込むべきである。

  21. 市場の状況
  22. 国際的な競争が行われている分野においては、国内市場を中心に企業結合の審査を行うことは不適切であり、国際市場の状況を踏まえて評価すべきである。

その他

企業結合相談事例の概要の公表にあたっては、事業者の秘密に関する部分かどうかの判断が恣意的になされないよう、公表にあたっては、当事会社の同意を要するものとすべきである。
また、各種届出書・報告書の書式変更にあたっては、必要に応じ意見聴取を行うことについて、今後、検討すべきである。


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