経団連くりっぷ No.87 (1998年10月8日)

経団連提言/9月22日

「PFIの推進に向けて−市場原理を活用した社会資本整備と構造改革の実現−」を提言


自民党における「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律案」(いわゆるPFI推進法案)の検討と本法案の国会提出を受けて、国土・住宅政策委員会(委員長:古川昌彦氏、共同委員長:田中順一郎氏、今村治輔氏)では、わが国におけるPFIの推進に向けた課題について検討を行なってきた。今般、PFIに関する経済界の考え方を明らかにするとともに、PFI推進法案の運用上の課題について問題提起を行なうべく、標記提言を取りまとめ、9月22日の理事会審議を経て、政府関係方面等に建議した。以下は本提言の要旨である。

  1. 基本的な考え方
    1. PFIを推進することの意義
      1. 社会資本の効率的な整備と公的サービスの向上
        PFIの推進は、社会資本の整備に係るコストを低減させ、効率的かつ着実な社会資本整備の推進に大いに資するとともに、民間事業者の創意工夫を期待できることから、国民はより良質の公的サービスを受けることができる。

      2. 民間の事業領域の拡大と経済活性化
        これまで官が実施してきた社会資本整備の分野を民間に開放することは、民間の事業領域を拡大し新規産業を創出する。ひいてはわが国経済の活性化につながる。

      3. 小さな政府の実現
        少子・高齢化による国民負担率の増大が確実に予想される状況において、長期的には、財政構造改革、ひいては「小さな政府」の実現に向けた取組みが必要不可欠。行政改革委員会が提示した「民間でできるものは民間に委ねる」という基本原則を公共事業分野においても遵守すべき。

        国土・住宅政策委員会では、本年7月、委員企業を対象に「PFIに関するアンケート調査」を実施した。その調査結果によると、回答企業の95%が「今後、わが国もPFI事業の導入を進めていくべき」と回答した。また、回答企業の20%が「現在検討中のPFIプロジェクトがある」と回答したほか、「将来的に自社で手がける可能性のある事業分野がある」と回答した企業は70%にのぼっており、民間企業のPFIに対する期待の高さが裏付けられた。

    2. PFI事業を行うにあたっての大前提
    3. イギリスで導入されたPFIは、「必要とされる社会資本整備事業のうち、官民の適切なリスク分担とVFMに反しない範囲内の支援措置ならびに市場原理の下で、民間ビジネスが成り立ちうる社会資本整備事業については、これを民間事業者に対して積極的に門戸を開放していくこと」といえる。わが国においても、上記のようなイギリス型のPFIの導入・推進に向けて、わが国にふさわしい環境整備・制度づくりを行っていくことが必要。特に従来型の民活事業との違いを明確にすることが重要。これらの観点から、下記の3点を厳守すべき。

      1. PFI事業への民間事業者の参入は、市場原理に基づいた民間事業者自らの投資判断によること
        いわゆる奉加帳方式による社会資本整備はPFI事業として行うべきではない。

      2. PFI事業の運営は、民間主導とすること
        官が民から「公共サービスを購入する」という発想をもつことが必要であり、PFI事業には、民間事業者の資金と経営ノウハウ、技術力等がセットで活用されることが重要。

      3. 必要な社会資本整備をPFIで行うか否かは、官がVFMにより判断すること
        社会資本整備のプロジェクトがVFM(Value for Money:国民の税金を国民のために最大限有効に活用するという考え方・尺度)の基準に合致しない場合、これをPFI事業として実施すべきではない。他方、必要とされる社会資本整備のうち、VFMが見込まれる事業については、積極的にPFIで実施していくべき。

  2. PFIの推進にあたって必要な条件整備と今後検討を要する主な課題
  3. PFI推進法案は、概ね上記の考え方が反映されており、基本的に評価したい。しかし今後の運用次第で、PFIが、ケースによっては問題が指摘されている第三セクターの二の舞になることも懸念なしとしないことから、政府は具体的な課題について検討を進め、検討結果を法により内閣総理大臣が策定する「基本方針」等で明らかにすべき。

    1. 事前の契約(協定)による官民のリスク分担の明確化
      PFI事業を行うにあたっては、各事業毎に、予想されるリスクに関して、官・民どちらが責任を負うのか、官民間で事前に契約(協定)により取り決めることが不可欠。リスク分担はわが国ではあまり馴染みのないことであるため、まず、政府がイギリス等の事例を参考に、リスク分担に係る参考モデルを提示すべき。

    2. 公平・透明な手続の確保と情報公開
      一連のプロセスを通じて、市場原理と国民によるチェックが機能するよう、公平・透明な手続と積極的な情報公開が行われなければならない。
      今後、特定事業の選定や民間事業者の選定に係る統一的な評価基準について、可能な限り「基本方針」で明らかにすべき。とりわけ、PFI事業の選定にあたって、VFMの徹底が重要であり、政府は、VFMの測定のための基本的なモデルを提示すべき。その他、PFI事業に係る実施手続や契約のあり方等についての具体的な検討を行い、「基本方針」や事業分野毎のガイドラインで広く一般に提示すべき。

    3. 官の関与ならびに公的規制を最小限に
      事業の遂行にあたって、民間事業者の自主性・創意工夫が発揮されることが重要であることから、民間が相当のリスクを負う一方で、「民主導の経営」を進めやすいよう、官の関与ならびに公的規制は最小限にすることが必要。社会資本の整備主体に係る規制の緩和や公有財産に係る規制の見直し等が必要。

    4. 民間事業者の参入を促すための措置
      VFMと採算見込みが成り立つ範囲内で、個々の事業毎に、財政・金融・税制上の措置等のベストミックスによる支援措置を講じていくことが必要。
      税の軽減措置(公共施設と基本的に同等の扱いとする)や、政府・地方自治体・政府系金融機関による低利・無利子融資制度、民間事業者に対する直接的な補助金の交付等の支援措置の選択肢が必要。

    5. 「民間資金等活用事業推進委員会」等第三者機関の機能の強化
      PFI推進法案で設置することとされた「民間資金等活用事業推進委員会」が的確かつ機動的に機能するよう環境整備を行うべき。また、地方自治体のプロジェクトに関して、同様の機能を担う全国的な組織を設置すべき。

    6. プロジェクト・ファイナンスの普及などその他の環境整備
      その他、プロジェクト・ファイナンスが行われやすい環境整備の推進、PFI事業が破綻した場合の対応、政府・地方自治体におけるPFI専門家の養成、官における会計制度の見直し等についての検討、国民のPFIに対する理解の促進が必要。


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