経団連くりっぷ No.87 (1998年10月8日)

首都機能移転推進委員会(委員長 河野俊二氏)/9月2日

首都機能移転推進に向け、国民的な議論の盛り上げが必要


政府の国会等移転審議会では、首都機能移転先候補地の選定に向け、9月から2区分3地域の調査対象地域(北東地域、中央地域<東海地域、三重・畿央地域>)で現地調査を行なっている。首都機能移転推進委員会では、これに先立ち、調査対象地域に位置する経済団体である中部経済連合会の須田寛副会長・21世紀新首都問題特別委員長ならびに東北経済連合会の芳賀滋彌専務理事を招き、首都機能移転の意義、新都市像、東京圏との連携のあり方、両地域の魅力などについて説明を聞き、意見交換を行なった。

  1. 中経連 須田副会長説明要旨
    1. 首都機能移転の意義
    2. 首都機能移転は財政構造改革で慎重に検討を進めることとされたことからも分かるように、公共投資としか捉えられていない部分がある。総経費12兆3,000億円という試算は10年以上に分けて使われる額に過ぎないにもかかわらず、巨額のばらまきとの印象を持つ向きもあるようだ。最近では景気対策という捉え方もあるが、首都機能移転は行財政改革の一環として行なわれるべきものであって、景気や財政事情に左右されて凍結されたり促進されたりすべきものではない。議論の出発点は、国地方の役割分担=「地方分権」と官民の役割分担=「規制緩和」とであるべきである。
      また東京一極集中を是正し、国土の均衡ある発展を図ることは急務であり、東京への異常な集中に起因する過剰な投資、不効率投資からの脱却のためにも首都機能移転は必要である。もちろんその推進に当たっては、効率的、経済的な方法による移転、国(地方)の諸計画との整合性が必要である。

    3. 中央地域の魅力
    4. 中央地域の魅力として、地理的に日本の人口重心が当地域に位置し、またすべての国土軸が当地域を通っていること、中部国際空港や東海道・中央新幹線など既存・既計画のインフラを活用し、「グローバルネットワーク都市」を形成しやすいこと、適度な都市集積があり、中部5県の人口密度(390.4人/km2)は全国平均(332.3人/km2)に近いこと、各自治体が独立しつつも連携をとっていること、などが挙げられる。
      今年5月には地元の自治体、経済団体により「『中央地域』へ首都機能移転を実現する会」を結成し、移転実現を目指し、活動を進めることを決議した。

    5. 東京圏との連携のあり方
    6. 中央地域と東京圏との間には交通・通信インフラが整備されており、時間的距離は短いが、地理的には東京圏の外延ではない「つかず離れず」の関係を形成できる。東京圏の再開発によるブラッシュアップは国民的課題だが、新都市は東京圏と連携し、機能分担をすることにより、東京圏の再開発に共に取り組むことができるであろう。

  2. 東経連 芳賀専務理事説明要旨
    1. 首都機能移転の意義
    2. 新都市の建設は超長期的な視野に立ち、崇高な理念を掲げ、新しい都市像のみならず、社会像、生活・文化像をも含めた新しい文明のあり方を日本はもとより世界に提示するものでなくてはならない。東経連では、新都市のあり方として、環境共生都市、森林・庭園都市、生活文化都市、国際交流平和都市の4つのコンセプトからなる「環境文化首都」を提案している。環境文化首都を実現することの意義は、

      1. 人心の一新、
      2. 東京一極集中の是正、東京の再生の促進、
      3. 行革と地方分権の促進の契機、
      4. 政経の分離、
      5. 環境共生型社会の促進、
      にある。

    3. 北東地域の魅力
    4. 北東地域には、日本の「共生と循環の哲学」により環境文化の理念を実現するのにふさわしい豊かな森と水を有すること、第一国土軸とは別の国土軸(北東国土軸)に位置することから、新都市が建設されれば多軸型構造への改編が進められること、ゆとりのある生活が享受できること、国際・航空ネットワーク等の整備により高い国際性を持てること、活断層が少ないといった安全性を有することといった魅力があり、またこれまで首都が置かれたことがなかったという清新なイメージがある。
      東経連では12年前から首都機能の東北移転を提唱し、今年4月には改めて首都機能移転専門委員会で、移転実現に向けて報告書を取りまとめるとともに、『首都移転が日本を救う─地球時代の新しい文明の創造』を出版するなど、積極的に活動している。

    5. 東京圏との連携のあり方
    6. 東京は新都市建設後も、経済首都、文化学術首都であり続ける。新都市は政治首都、環境文化首都として、東京と相互補完の関係を形成すべきである。

  3. 意見交換
  4. 経団連側:
    私は在京の企業の経営者であるが、東京は過密が進みすぎ、行き詰まっていると感じる。東京パッシング、ジャパンパッシングの流れを変え、閉塞感を打破するためにも、首都機能移転を契機に、新しい国土づくりを行なうべきである。

    経団連側:
    東京への公共投資額を考える場合、東京都の数値は昼間人口で見るべきであり、あるいは「神奈川都民」「埼玉都民」等といわれる状況を考えれば、東京圏を全体として捉えるべきである。圏域全体では、むしろ公共投資の配分が少ないといえる。
    東経連側:
    これまでわが国の近代産業社会を支えてきた東京および第一国土軸には感謝をし、今後は新たな哲学を打ち立てて、多軸型国土構造を実現すべきである。
    中経連側:
    多軸型国土構造の形成の必要性は分かるが、首都機能移転とは別の問題と考える。東京にも首都機能移転を支持する声があることはありがたい。

    経団連側:
    各誘致地域では意思統一はできているのか。
    中経連・東経連側:
    各地域では、自治体レベル、民間経済団体レベルでの誘致決議などが行なわれ、まとまっているが、逆に移転が現実のものと十分に認識されていないから、反対論もあまり出ていないという側面もあろう。全国的に見ても首都機能移転に向けた議論がまだまだ盛り上がっていない。国や経団連の旗振りをお願いしたい。

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