経団連くりっぷ No.87 (1998年10月8日)

今後の日米協力を考える部会(部会長 田口俊明氏)/9月21日

新時代の経済交渉には民間もより積極的な提言を


アメリカ委員会 今後の日米協力を考える部会では、田口俊明トヨタ自動車常務取締役を新部会長に迎え、日米関係を中心に、国際経済交渉における民間の役割について検討することとしている。9月21日には、その第1回として、黒田 眞2005年国際博覧会協会事務総長(元通産審議官)より、これまでの日米経済交渉における政府と民間の役割や、今後の通商戦略について聞いた。

  1. 黒田事務総長説明概要
    1. 日本のGATT加盟(55年)は戦後の国際経済社会への復帰における大きな出来事である。GATTにおいて、数次にわたる関税交渉の後、ウルグアイ・ラウンド交渉でWTOが発足(95年)し、従来のルールの強化、農産物やサービス貿易等への規律の拡大、紛争解決手続の整備が行なわれたことは画期的であった。この交渉において、日本は政府ベースでは従前より積極的に貢献したと考えるが、民間側に参加したという意識があったのかという問題も指摘されている。特に2000年からの新ラウンドに向けて民間がどう関わっていくかは重要課題である。

    2. 一方、戦後の対米関係は自主規制の歴史であり、繊維、雑貨から鉄鋼、カラーTV、自動車等の問題が続いてとり上げられた。
      輸出自主規制については、政府が安易にこれに応じたため、規制の拡大・長期化、新規事業者の進出抑制、第三国の躍進等を招いたとの批判がある。しかし他方で、過当競争の防止や、輸出管理権の保持による取引上優位な立場の確保、事態悪化の回避等をもたらしたとの評価もある。

    3. IMF8条国への移行(63年)に際しては、国際収支上の理由による輸入数量制限が認められず、残存輸入制限として牛肉、オレンジ等が問題となった。個別業界の利害は大きかったが、コメを除き一段落している。

    4. 80年代には輸入拡大問題が浮上した。その背景には、貿易黒字と日本の構造的過小輸入がある。政府は民間に輸入拡大を呼びかけるとともに、MOSS協議の開始、OTOの設置等の措置を講じるなど、輸入歓迎の方針を維持した。
      しかし85年に米国政府は、外国の不公正な取引慣行に積極的な対抗措置を取る方針に転換し、通商法301条の提訴が増加した。
      しかし85年秋以降の大幅な円高にも拘らず黒字は減少せず、日本市場の特殊事情が影響しているとの認識が広がることとなった。この状況を利用して、米国の半導体、板ガラス、自動車電話、保険等の業界は、日本市場へのアクセス拡大を図っている。

    5. こうした中、86年8月には日米半導体協定が結ばれた。この背景には、日本政府による産業育成政策が効果を発揮したこと、世界市場の制覇につながったとの主張があるが、これは官民の密接な連係を前提としている。
      協定成立の数カ月後、米国は日本の協定不履行を理由に対抗措置(カラーTV、パソコン等への100%関税賦課)を採った。日本政府がこれを黙認したため、日本市場で20%のシェアを認める密約ありとの噂を呼んだがあり得ないことである。
      この協定によって、ダンピング認定による対米輸出への支障は回避された。また結果的に価格維持協定として機能し、採算向上につながったという面もある。
      なお、米国のGATT違反を追求しなかった背景には、米国の反発への懸念と共に、残存輸入制限として自由化を求められていた農産物(12品目)について、GATT枠外での解決を模索していたという事情がある。

    6. 89年から91年の日米構造協議(SII)は、通商法スーパー301条の適用を限定するために考えられた手法である。米側は広く要求を募集し、日本国内の議論も利用したと言われる。日本政府も米国に要望を提出したが、民間がこれを支えたかとなると疑問なしとしない。

    7. 93年4月の日米首脳会談では、数値目標が持ち出されたが、宮沢首相(当時)はこれを断った。しかし関係修復を急いだ結果、米側担当者に期待を持たせ、包括協議(93年〜)に繋がることとなった。
      このうち自動車協議では、半導体での経験もあり、高級車への100%課税といった脅しを撥ね付けたが、要求の理不尽さに加え、業界の強い反発、内外世論の支持、米国輸入業者の反対等も背景にあった。
      この経験からも、特にWTO体制の下では、ルールに基づいた解決策の有用性を認識すべきである。

    8. 日米貿易関係については、米国は外交問題評議会に研究会を設けるなど、新しい枠組みに向けて検討を進めている模様である。過剰反応は不要であるが、常に米側の動きに注意を払う必要がある。同時に欧州の議論にも目配りが必要である。
      日本としては、できるだけ先手をうって問題を取り上げ、解決策を提言する必要がある。民間としても、諸問題につき議論の上、明確に意見を述べることが肝要である。ビジョンある構想を積極的に打ち出し、新しいルールを導き出していくことが必要である。

  2. 質 疑
  3. 経団連側:
    米国は政府間交渉や大統領の外国訪問にも民間人が同行し、密接に意見や情報を交換している。日本は背後からの応援に止まっているが、将来的にこのままで良いと考えるか。
    黒田事務総長:
    日本は行政に民間の意見を反映する仕組みがあり、米国より組織化されているのではないか。一方で行政の取り組みについて民間企業の協力を得にくいこともあったようだ。

    経団連側:
    日本はこれまで経済団体が企業の意見を取りまとめ、政府に伝えてきたが、今後の官民の対話のあり方についてどう考えるか。
    黒田事務総長:
    これまでの方法への反省は必要であるが、米国のように声の大きい個別企業の意見だけが通るということにはならないのではないか。

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