経団連くりっぷ No.87 (1998年10月8日)

アメリカ委員会/9月18日

日本経済再生への処方箋について
ポーゼン米国国際経済研究所研究員と懇談


アメリカ委員会では、米国国際経済研究所のアダム・ポーゼン研究員を招き、米国側からみた日本の景気低迷の原因や、景気回復に向けて取るべき政策について説明を聞いた。

  1. 現在日本は、過去の政策の誤りに対する責任を問われている。
    92年から94年にかけての日本の景気低迷は、バブル崩壊後に通常みられる景気後退であるが、その後、94年から98年にかけての景気後退は橋本政権による政策の誤りの結果である。つまり、財政再建を優先する余り、計画的かつ十分な財政刺激策を取らなかった事である。
    米国の一部には、日本政府が財政刺激策をとったにも関わらず日本経済は回復しなかったという見方があるが、これは誤りである。日本政府は、93年から98年にかけて十分な財政刺激策を取らなかったし、95年に1回限り、大規模な財政刺激策をとった時は一時的だが景気は回復した。しかし、その後、財政支出が抑えられ、97年に消費税が引き上げられたのでその効果は続かなかった。
    また一般に92年からこれ迄に日本政府がとった財政刺激策は65兆円から75兆円と言われるが、実際に支出された額はこの3分の1の23兆円程度に過ぎない。いわゆる真水の問題や地方財政の悪化により政府が要請した程、地方が支出しなかった問題などがある。

  2. 日本の景気回復のために、以下の政策を提案したい。
    第1に十分な規模の財政刺激策の実施である。現在、日本の潜在成長率は2%程度と言われるのに対し98年度成長率はマイナス1.5%程度と予測されている。したがって、潜在的能力と実際の生産の間のギャップを埋めるためにはGDPの4%程度の財政出動が必要である。これよりも小規模な支出は、お金の無駄である。
    第2に、減税か公共投資かの選択については減税、特に所得減税を勧めたい。なぜならば、政府の行なう公共投資は個人の信頼回復に繋がりにくいのに対し、減税は国民に対する政府の明確なメッセージとなる。また所得減税は、サラリーマン世帯の消費を直接に刺激すると共に、日本の税体系の改善にも寄与するからである。
    第3に、インフレ・ターゲットを設定することである。現在の日本のように金融システムに問題がある場合、金融政策は投資に繋がりにくい。したがって、金融政策は物価水準を安定化させることを目標とすべきである。また、現在日本はデフレに近い状況と言われるが、金融機関の債務が悪化している時にデフレは避けなくてはならない。無制限な金融拡大によるインフレの危険を回避しつつデフレ圧力をなくすために、日本は3%程度のインフレ・ターゲットを設けるべきである。


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