経団連くりっぷ No.88 (1998年10月22日)

経団連アジア・ミッション(第1次:ベトナム、タイ、フィリピン)/10月1日〜8日

日本経済の先行きに関心が集中


経団連では、今井会長を団長とする第1次アジア・ミッションを10月1日から8日にかけてベトナム、タイ、フィリピンに派遣した。各国では、首脳をはじめ経済担当閣僚や民間経済団体等と意見交換を行なった。

  1. 総 括
  2. 3カ国とも、日本経済の先行きに対し大きな関心と期待を寄せている。経団連側から、日本経済の現状と景気回復の見通しについて説明したのに対し、各国の要人からは一様に、一日も早い日本の景気回復を望むとの発言があった。金融改革関連法の成立により金融収縮を解消し、加えて、減税や公共投資等により実体経済を着実に回復させる必要がある。
    他方、ODAや貿易、投資などを通じて日本がこれまで行なってきたさまざな協力や、日本政府によるアジア経済危機に対する支援策などに対して、各国首脳より感謝の意が表明された。さらに、10月3日に発表された総額300億ドルのいわゆる「新宮沢構想」について説明したところ、強い関心が寄せられた。
    各国経済については、経済危機の中にあって多少の下方修正を余儀なくされているものの、ベトナムやフィリピンではプラス成長を見込み、また、タイも今年が底で、99年は回復に向かうとのことであった。
    そうした中で、日本企業への期待も大きい。いずれの国においても、現地に進出している日本企業は、苦労しながらも事業活動の継続と雇用の維持に努めている。そうした日本企業に対する各国の評価は高く、投資を継続してほしいとの要請があった。各国政府としても、引き続き投資環境の整備に努力するとのことであった。今後開催される二国間会議において、今回のミッションのフォローアップを具体的に行なう。

  3. 各国の印象
    1. ベトナム
    2. ベトナム レ・カ・フュー書記長(右)と会談

      ベトナムでは、ルオン国家主席、フュー書記長、カイ首相という3名の指導者すべてとの会談が実現し、ベトナム政府の経団連ならびに日本に対する期待の大きさがうかがえた。カイ首相には、小渕首相の親書を手渡した。また、日本ベトナム経済委員会のカウンターパートである計画投資省(MPI)のザー大臣やハノイ・ホーチミン両市長、ベトナム商工会議所のタイン会頭とも意見交換を行なった。
      ベトナム側からは、ベトナム経済もアジア経済危機の影響を少なからず受けており、経済計画を多少下方修正せざるをえないが、回復には自信を持っているとの発言があった。また、資金や市場経済に関する知識・経験等が不足しており、こうした分野での日本の協力が求められた。
      経団連からは、経済危機で苦しい中にあっても日本企業は事業活動継続に努力していることを説明し、ベトナム側に投資環境の整備について一層の努力を要請した。
      なお、ミッション訪越の直前に、ベトナム日本商工会の設立が正式に認可され、同商工会の開所式にミッション一行も出席した。今後、日本ベトナム経済委員会としても、同商工会との連携を密にしていく。

    3. タ イ
    4. タイでは、チュアン首相、スパチャイ副首相兼商務相、スリン外相と会談の機会を得たほか、経済3団体(タイ貿易院、タイ工業連盟、タイ銀行協会)とも意見交換を行なった。タイは今回訪問した3カ国の中では最も深刻な経済的影響を被った国であったが、チュアン首相の卓越したリーダーシップのもと、IMFとの合意に従って着実に経済改革を進めている。ただ、為替や金利、インフレ率といったファンダメンタルズは改善しているものの、国内投資の減少やドルベースで見た輸出の落ち込みなどの問題は依然、根深い。そのためタイ政府は、財政支出を増やして投資の減少を補うとともに、さまざまな輸出振興策を打ち出している。日本に対しても、一刻も早く国内の景気回復を達成して、タイからの輸入を増やしてほしいとの要望が寄せられた。
      他方、現地に進出している日本企業が増資を通じて資金調達を行なう際、現行の外資規制を緩和する必要がある旨、要望したところ、スパチャイ副首相他から、近々、外資規制を緩和する法案を国会に提出するとの説明があった。加えて、タイは自由化の方針を堅持し、国営企業の民営化も進めるとの意思表明があった。

    5. フィリピン
    6. フィリピンでは、エストラダ大統領、シアソン外務長官、パルド貿易産業長官ほか経済関係省庁次官と懇談するとともに、民間経済団体であるマカティ・ビジネス・クラブ、さらにアジア開発銀行とも意見交換を行なった。
      フィリピンは、他のアジア諸国と比較して金融が安定しており、輸出も高い伸びを示している。98年5月に行なわれた大統領選挙を通じて、民主主義の定着が世界に発信され、また法制度も整備されている。さらに、会計士や弁護士、技術者などの人材も豊富であり、こうした点が投資先としてのフィリピンの魅力となっている。
      こうした中で日本企業は、主に輸出加工区に相当の投資を行なっており、半導体、エレクトロニクス等の分野での輸出に貢献している。92年から97年までの累計では、日本がフィリピンの輸出加工区に対する第1位の投資国となっている。
      また、フィリピン側から、フィリピンはこれまでの自由化路線を堅持し、規制緩和、民営化等を通じて、強靭かつ開放された経済を目指すとの説明があった。さらに、アロンゾ国家経済開発庁次官からは、フィリピンは資本取引に規制を課すつもりはないとの発言があった。
      フィリピン経済については、アジア経済危機の影響やエルニーニョによる農業部門への打撃により、成長率は0.6%に落ち込んだものの、堅調な輸出と財政支出により、成長を維持するとの説明があった。


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