経団連くりっぷ No.88 (1998年10月22日)

産業技術委員会政策部会(部会長 武田康嗣氏)/9月30日

「不況突破の技術=21世紀の技術」について


わが国産業構造の成熟化が進むなか、産業界では、新たな市場の創造と国際競争力の強化に向け、官民挙げて、産業技術力の強化に戦略的に取り組む必要があるとの声が強まっている。そこで、産業技術委員会政策部会では、森谷正規・放送大学教授を招き、「不況突破の技術=21世紀の技術」と題し、以下の説明を聞くとともに種々懇談した。

  1. 変わる2割をいかに伸ばすか
  2. わが国の主力産業である家電、自動車等の量産型産業は、現在、市場の飽和、技術的な成熟、価格競争力の低下等により低迷しており、わが国産業は大きな転換期を迎えている。しかし転換期と言えども、変わるのは2割であり、残りの8割(従来からの量産型産業)はいつの時代も変わらない。この2割が今後の産業発展を大きく左右するものであり、いかに伸ばすかが課題である。

  3. キーワードは「社会」という市場
  4. 市場を「産業」「家庭」「社会」に大別すると、大量生産時代に大いに進んだ技術は、「産業」と「家庭」であった。そこで、21世紀は技術を「社会」に向け、変わる2割は、環境、交通、防災、教育、医療、福祉等の「社会」に係わるビジネスを展開すべきである。

  5. 21世紀の技術の方向
  6. 21世紀に技術が目指す方向は3つある。第1は、20世紀の発展の後始末ともいうべき、廃棄物処理、交通渋滞等の社会問題の解決である。第2は、高度情報化社会に向けた情報技術である。情報技術自体は進歩しているが、今後は多種多様な応用開拓ができるかがポイントになる。第3は、「人間」と「自然」である。特にこれらを「知る」という観点から、医療、防災、環境保全等の分野での市場が期待される。

  7. 市場を作る仕組みが重要
  8. しかし、そのままでは市場は成立しない。「社会」に市場を創り出すためには技術に加え、政治の力が大きい。この難局の下、産業発展の新たな道を切り拓くためには、経団連が21世紀のわが国の社会経済のビジョンを掲げ、技術が「社会」に向くよう、強力に政治に働きかける必要がある。

  9. 社会に目を向けた政策
  10. 従来の産業政策は技術開発中心であった。しかし、わが国の産業技術力は向上し、技術開発はそのメインではなくなった。今後は、社会に目を向け、市場を創る政策が必要である。特に国家的な大型プロジェクトの推進を掲げることにより、市場を顕在化させることが重要である。

  11. 豊かな不況、不安な不況からの脱却
  12. 私が大深度地下鉄、地下物流ネットワーク等の国家的な大型プロジェクトの推進を提唱している理由は、人々に21世紀に為すべきことが沢山あることを認識してもらい、プロジェクトに対する需要を喚起することである。われわれはこれらのプロジェクトを、「国家20年の計」として着手することで、現在の豊かな不況、将来への不安から脱却を図るべきである。


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