経団連くりっぷ No.88 (1998年10月22日)

日本ベネズエラ経済委員会(座長 根上卓也氏)/9月24日

ベネズエラ経済情勢と大統領選の展望


日本ベネズエラ経済委員会では、外務省中南米局の越川中南米第2課長より、ベネズエラの経済情勢および本年12月に予定されている大統領選の展望を中心に説明を聞いた。

  1. ベネズエラ情勢を理解する上でのポイント
  2. ベネズエラは、「21世紀後半でも石油を採掘できる数少ない国」と言われるほど有望な大産油国である。他方、輸出総額の70〜80%、国家の一般歳入の50%以上が石油関係で占められており、依然として石油依存型の経済発展モデルから脱却できていない。また、かつてベネズエラには中流階級が多く存在したが、80年代の中南米全体にわたる経済停滞により、中所得者が低所得者に転落し、その後ますます貧困化して、大きな社会問題となっている。

  3. 世界的な経済危機の影響
  4. アジア、ロシアに端を発した金融・経済危機は、中南米全体に波及しつつある。ベネズエラでも、石油の国際価格の低迷が、貿易収支に大きな影響を与えている。株価は8月だけで29%、昨年のアジア危機発生時からは70%も下落、通貨ボリバルも下落している。また金利を上げて外資の流出を防ごうとしているが、長期的に実体経済にマイナスの影響を及ぼすことが心配される。公共部門の財政赤字もGDP比5〜6%に達する等、状況は厳しい。従って98年の成長率は、97年の5.1%を大きく下回り、場合によってはマイナス成長も予想される。

  5. 大統領選(12月6日実施)の展望
  6. 現在の最有力候補はチャベス候補である。元陸軍中佐で、92年のクーデター未遂事件の首謀者である。現在のベネズエラの金融・経済危機は、反ネオリベラリズム政策を掲げるチャベス候補にとって明らかにプラスである。国民の間には既成政党に対する不信感があり、ある程度強権的な政治が期待されている。そのため、カリスマ性のあるチャベス候補に人気が集まっている。これに対抗するのが、伝統的な富裕層を代表するサラス・ロメール候補である。
    チャベス候補の主張には、貧困救済など伝統的なポピュリストの面が見られる。政治体制については、制憲議会の招集、国会の解散、新憲法の制定を主張している。また経済面では、民営化、石油開放政策に関し、政策そのものは国益を優先しながら推進するが、過去の契約については妥当性を再点検するとしている。外国投資については、国益に沿うものであるならば歓迎するとしているが、具体的な内容は不明である。対外債務について、支払いの延期を話し合うと述べていることも大きな問題である。
    これらの政策については、特に外国投資家の間に不安が広がっている。この点はチャベス陣営も意識しており、今後、外国投資家や銀行家を集めて直接経済政策を話したいと言っている。経済ブレーンへも、穏健な専門家を加えることになろう。


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