経団連くりっぷ No.89 (1998年11月12日)

OECD諮問委員会(委員長 河村健太郎氏)/10月13日

企業活動のグローバル化に対するOECDの活発な活動

−ジョンストンOECD事務総長との懇談会を開催


来日したジョンストンOECD事務総長を迎えて、産業技術政策、電子商取引、環境、多国間投資協定、国際金融問題など、企業活動のグローバル化に伴う諸問題へのOECDの取組みをめぐり懇談した。

ジョンストン事務総長

  1. グローバル化は経済界主導
  2. ジョンストン事務総長:
    グローバル化が通信等の技術革新により経済界主導でもたらされたものであることから、OECDはグローバル化に伴う諸問題を検討する上で、経済界の優先分野を活動対象とすべく努めている。この代表例が電子商取引であり、OECDはBIAC他と協力して、そのグローバルな可能性の実現に向け、国際会議を2度開催するなど重要な役割を果たしてきた。去る10月7日〜9日のオタワ会議では、加盟国政府関係者のほか経済界、消費者、国際機関、非加盟国代表など関係者が一堂に会した。特に経済界が積極的に役割を果たした結果、プライバシー保護の原則や課税問題の取り扱いにつき合意が成立するなど具体的な成果を生むことができた。

  3. 産業技術政策
  4. 中村BIAC技術委員会委員長:
    付加価値の高い新規市場を開拓し、国際競争力を強化するために、
    1. 先端技術の公共プロジェクトの推進(特にバイオテクノロジーに関するデータ整備、長期計画、新規産業の推奨、倫理規定、健康との関係、知的所有権など)、
    2. メガサイエンス分野の公共プロジェクトの推進、
    3. 人材教育といった産業技術政策をOECDが推進、
    していくことが望まれる。

    ジョンストン事務総長:
    かつて個々の産業に直結していた産業政策は、現在では産業競争力強化のための環境整備の性格が強くなってきている。BIACの意見に耳を傾けながら、こうした変化に対応した産業政策を検討していきたい。

  5. 電子商取引
  6. 石田BIAC情報・コンピュータ・通信政策委員会副委員長:
    オタワ会議に産業界が提示したビジネス・アクション・プランの作成に関わった立場から、真の受益者である消費者の声を真剣に受け止めることの重要性を感じた。またプライバシーの保護等で加盟国間の意見の相違に踏み込むに至らなかったところに、OECDの限界を感じた。

    ジョンストン事務総長:
    確かに消費者の意見をより取り込む必要がある。加盟国間の意見調整は今後の課題であるが、関係者は基本的に解決に向けて同じ方向を向いているので楽観視している。

  7. 廃棄物政策
  8. 庄子経団連環境安全委員会廃棄物部会長:
    OECDでは現在、廃棄物政策に関し、拡大生産者責任原則(EPR: Extended Producer Responsibility)の導入が議論されていると聞いている。製品のライフサイクルの各段階で消費者も含めた関係者が環境負荷の削減に努力すべきであり、すべての廃棄物処理等のコストを一律に生産者のみに負わせるEPRの考え方には反対である。

    ジョンストン事務総長:
    EPRについては現在作業中であり回答は留保するが、なるべく柔軟性をもたせるよう努力がなされている。

  9. 多国間投資協定(MAI)
  10. 太田経団連参与:
    わが国経済界はMAIを非常に重視しているが、交渉は各国間の妥協の見通しが立たないまま一時中断されている。早期締結に向け事務総長の強いリーダーシップの発揮を期待する。特に一部NGOの誤った認識に基づく反対運動により、MAI本来の目的が後退することがないようにすべきである。さらにMAIとの関係でOECD多国籍企業ガイドラインの見直しが検討されているが、適用対象となる企業の意見を充分勘案し、国際的な企業活動の障害とならないようにしていただきたい。

    ジョンストン事務総長:
    市民社会とのコミュニケーションによりMAIに対する誤解を払拭する必要があるが、他方、十分な正当性を持つ指摘については交渉上、留意すべきと考える。MAIの成功裏の妥結を期待しているが、まだ克服すべき課題は多い。

    野上OECD日本政府代表部大使:
    欧州の政治体制が変化しており、交渉の再開には紆余曲折が予想される。市民との対話の重要性に鑑み、日本政府も9月にNGOと対話したところ、MAIの内容が十分に把握されていないことが明らかになった。さらなる情報提供、意見交換の必要性を感じている。

  11. 社会問題
  12. 鈴木BIAC雇用・労働・社会問題委員会副委員長:
    最近、TUAC(OECD労働組合諮問委員会)や国際自由労連などが、多国籍企業の社会的側面に関する行動指針を定め、OECDやILOを通じてソーシャル・ラベリングを行なうことを提案していると聞いたが、OECDに対しこうした働きかけが実際にあるか。

    ジョンストン事務総長:
    現時点では承知していないが、12月に多国籍企業ガイドラインの見直しに関するTUACとの協議があるので、この場で何らかの意見が表明されると思う。

  13. 国際金融問題
  14. 藤原経団連常務理事:
    世界の政治経済を振り回している短期の資本移動は、従来、OECDの資本移動自由化コード等が想定していた投資とは性格が異なると思われるが、OECDとしてはこうした問題にどのように取り組むのか。

    ジョンストン事務総長:
    OECDは本来、資本移動の自由化を促進する立場にある。しかし最近は、経済の良好な国の通貨でさえ投機筋の攻撃対象となっており、「カネの一次産品化」の声も聞かれる。
    国際的な投資の流れの大半はOECD加盟国によるものであるから、OECDはリソースさえ確保できれば、この問題の解決に役割を果たしうると考えている。

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