経団連くりっぷ No.90 (1998年11月26日)

なびげーたー

国の競争力を左右する行革の成否

常務理事 立花 宏


行革一時棚上げ論が政治や行政に根強くあるが、競争力を維持し政策に対する国民の懐疑感を払拭するには、公約として掲げた行革の断行こそ必要である。

  1. 景気が悪いから行革は一時、棚上げしたらどうかという考えが役所や政治に根強くある。しかし、今回の不況に対し政治や政策当局が講じてきた対策の中身、意思決定のタイミングの妥当性を冷静に考えれば、決してそうならないはずであろう。1992年以降、累計100兆円規模の景気対策を講じてきたにもかかわらず、今なお経済の混迷状態を脱け出し得ないのは、何によるものなのか。経済界が永年、悩まされてきた縦割り行政による弊害にしても、行政各部が独立して意思決定を行なうという現行システムを維持したまま改革が可能なのであろうか。本年7月、ムーディーズ社が日本の国債について格下げの方向で見直す旨発表した(去る11月17日にワンランク下げ発表)が、その理由のひとつとして挙げたのは、日本経済が従来の政策では対処しえない深刻な構造問題を抱え、政治と政策当局の間で容易にコンセンサスが得られないことだった。国債の格下げは、日本企業全体にとって資金調達コストの上昇を意味する。こうした状況を考えれば、むしろ行革の緊要性は、より強まっていると言えよう。

  2. 本年6月に成立した中央省庁等改革基本法は、内閣機能の強化や中央省庁の再編、国の行政機関の減量化・効率化、政策評価・調整システムの導入、政策の企画・立案部門と実施部門との分離など、画期的な制度改革を明文化している。単なる看板の架け替えにすぎないとの指摘もあるが、行革基本法とも言うべき性格のものであり、具体的な肉付けはこれからが正念場である。

  3. 国の競争力は、単に産業の競争力だけではない。スイスに本部をもつ国際経営開発研究所(IMD)は、毎年、8つの評価項目により国全体の競争力を評価しているが、日本は、93年に総合第2位となって以来、年々ランキングを落とし、98年は18位に後退している。日本のランキングを落としている項目のひとつに「政府」がある。「政府」の中でも「経済政策」、「透明性」、「政治システム」は、いずれも46カ国中、最下位となっている。メガコンペティションの中で、国家としての総合的な競争力が問われているのである。

  4. 今日の消費低迷の背景に、将来に対する国民の不安感が指摘されているが、そうした不安感を根拠づけているのは、構造改革を先送りし、眼前の危機に対して事後的にしか対応しえない行政システム・政治の意思決定システムに対する国民の深い懐疑感があると思われる。
    こうした懐疑感を払拭し政策に対する信頼感を取り戻していくには、政治が公約として掲げた行革を断固、やり抜くしか他に途はないのではないか。


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