アメリカ委員会(委員長 槙原 稔氏)/11月11日
米国経済の好調さの要因の一つとして、規制緩和や情報技術革新等を背景とする企業の競争力の向上が指摘されている。そこで、アメリカ委員会では、産業競争力分析の専門家であるリチャード・レスター マサチューセッツ工科大学(MIT)教授(産業パフォーマンスセンター所長)から、米国産業の競争力について説明を聞いた。
90年代以降の米国経済の回復については、マクロ経済政策の成功、ベンチャーキャピタルに支えられた起業家精神の発揮、大手企業のリストラ、そしてIT(情報技術)を根拠とするニューエコノミー論等、多くの要因が指摘されてきたが、経済のパフォーマンスを評価する上で最も重要なのは国民の繁栄である。
米国では、殆どの国民の実質所得が向上したものの、生活水準については約半数の世帯が依然快適以下のレベルにある。その大きな要因は、看過しがちであるが、生産性の伸びの低さにある。
健全な国民経済の指標は、生産性の高さであり、その向上が必要である。米国の生産性は、他の多くの先進国と同等もしくはそれ以上のレベルにある。しかしその伸び率は、73年以降、それまでの年平均2.3%から1%前後に低下している。生産性の伸び率と賃金の伸び率には長期的に強い相関関係があり、生産性の伸び率を維持できていれば、米国の家計収入は現在より平均35%増となっていたはずである。また収入については、同時に格差が拡大し、生産性の向上は低所得層の問題解決に繋がっていない。
結局、90年代の経済パフォーマンスにおいては、ビジネスの長期にわたる力強い拡大、マクロ経済上のファンダメンタルズの充実、賃金・貯蓄・投資の継続的拡大がみられる一方、生産性は70〜80年代に比べてそれほど変化しておらず、その向上は依然米国経済の中心的課題なのである。
注目すべきは、90年代、製造業の生産性の伸び率が、経済全体の伸び率の3倍強となり、73年以前の水準を回復したことである。ダウンサイジングやアウトソーシングへの取組みも指摘されるが、80年代以降、雇用者数の減少が3%に止まるのに対し、生産性は44%向上している。また耐久消費財の需要はサービスに対する需要より急速に増加しているのである。
しかし今日、製造業とサービス業の垣根は崩れつつあり、顧客はサービスの付加価値を有する製品を望んでいる。サービスも、ソフトウェアや情報通信技術の発達により、その創出と消費は場所的、時間的に一致しなくなり、製品に近くなっている。
最近も5つの主要業界(自動車、鉄鋼、半導体、電力、無線通信)の分析を行なったが、各々の再生と成長の源泉はさまざまである。
90年にMITが行なった研究では、ゲームのルールの根本的な変化に伴い、米国産業は低コスト、大量生産システムの転換、新たな生産システムの構築が必要と指摘したが、各分野のリーディング・カンパニーの共通点は、さまざまな取組みが、システム全体の中で互いに強化し合うものと理解しているということであった。
さらに当時、疑問であったのは、企業はなぜ成功例に倣わないのかという点である。その答えは、市場、顧客、株主そしてライバル企業等からの「外的な力」に対する内的な価値、「内的な力」にある。ある調査によれば、同業他社を大きく引き離している企業(visionary company)は、容易に変わらないイデオロギーを堅持し、これが人々にインスピレーションを与えていた。利益より信条が重視されているのである。
経済全体の生産性の伸びと個別企業の活動の関係は見過ごされがちである。しかし長期にわたり生産性の向上を実現していくためには、企業レベルの効率性改善とともに、付加価値の高い財・サービスの開発、新市場の創出といったイノベーションが必要である。そしてこのイノベーションのためには、