経団連くりっぷ No.91 (1998年12月10日)

OECD諮問委員会(委員長代行 塩谷憲司氏)/11月25日

アジア経済の行方と今後のOECDの役割


9月と11月に開催されたBIAC経済政策委員会会合に参加した田中同委員会副委員長(東京三菱銀行 常任参与)より、会合の模様について報告を聞いた。同会合では加盟諸国の経済見通しのほかに、国際金融問題の解決に向けOECDが果たすべき役割について議論が行なわれた。

  1. アジア経済は最悪期を脱した
  2. アジア経済については、為替市場、株式市場の状況を見る限り、破局的なリスクを含んだ最悪の時期は脱したというのが総括的な意見であった。ただし、穏やかな成長路線への回復には、まだ時間がかかるとの見方が多かった。
    アジア危機はロシアや中南米に伝染し、とりわけブラジルに大きな影響を与えた。最終的にIMFが400億ドルの支援を決定し一応の収まりを見せているが、米国等は今後のブラジルの展開を懸念している。
    中国では朱鎔基首相の三大改革が失業の増大、社会不安を引き起こし、内政上困難に直面するおそれがある。その際、通貨を切り下げ、外需に頼る経済運営に走るリスクがあるとの指摘があった。
    日本の金融関連法案の成立はOECDでも評価している。ただし、減税は日本では消費よりも貯蓄にすりかわる可能性が大きく、本当に機能するのかという点が議論の的となった。

  3. 国際金融問題とOECDの役割
  4. アジア危機の原因となったヘッジファンドの問題については、ヘッジファンドそのもの以上に、ヘッジファンドに莫大な信用供与を行なった銀行、投資銀行に問題があるとの結論であった。
    今後、こうした国際金融の問題に対応していく上で、IMF、世銀等の国際機関が個別に対応していくだけでは充分機能しないと思われる。そこで、OECDがさまざまな機関から横断的に人を集めて新しい問題に取り組む上でのオーガナイザーとしての役割を果たすべきではないか、という意見が出された。

  5. 欧州の最優先課題はユーロ発足
  6. 欧州経済は、個人消費、企業投資が底固く、大変安定している。目下の最重要課題は99年1月1日に予定されるユーロの発足であり、これに向けて各国の金利を収斂させる必要から、当面は金利の引き下げが難しい。そのため欧州通貨が強くなり、輸出競争力がやや損なわれる可能性がある。

  7. 経済政策の自由度が大きい米国
  8. 米国経済については99年に後退期に入るとのリスク・シナリオもある。しかし連銀が3度にわたる金利引下げを実施したことに加え、欧州、日本と比べて、金融政策、財政政策両面で最も自由度が高いので、中期的には信頼感が容易に損なわれることはないと見られる。


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