経団連くりっぷ No.91 (1998年12月10日)

WTOサービス自由化交渉に関する懇談会(座長 太田 元経団連参与)/11月24日

WTO次期サービス・ラウンドへの対応が急務


WTOサービス自由化交渉に関する懇談会では、東京大学法学部の石黒一憲教授を招き、同交渉がわが国に与える影響を中心に説明を聞くとともに懇談した。

  1. 基本認識
  2. 次期サービス交渉を、ウルグアイ・ラウンド(UR)によって敷かれた自由化路線、市場原理主義で進めていくことは問題である。
    ここ数年の日本国内の構造改革は、日本自身のためというよりむしろ米国政府の思惑と合致するものに思えてならない。日米の全面的な経済戦争状態は続いているが、米国は巧妙にWTO等多国間の場を利用して日本に自分自身を叩かせようとしている。

  3. グローバル・スタンダードが作られる
    1. 現在、サービス分野では米国主導でグローバル・スタンダードが作られつつある。これは、従来の市場アクセスや内国民待遇といった原則を超えるものである。例えば、サービス貿易一般協定6条4項はUR交渉時に米国が巧みに入れ込んだ「隠し球」である。この条項に従いサービス分野の国内規制に対する規律を策定することになっており、すでに会計士分野の規律策定が行なわれている。続いて税務など他の自由職業サービスの規律策定がなされ、さらに自由職業以外の他のサービス分野に波及する可能性がある。この規律策定作業が日本に有利に展開するとは思えない。どこまで不利になることを食い止めうるかということが次期サービス・ラウンドに向けての課題である。

    2. また、国際標準化機構(ISO)では、WTOから委託を受け、サービスに関する標準化の作業を進めている。本来、標準化とは技術移転等を考えた上で最も望ましい技術を見出していくべきものである。しかしISOの品質管理の標準化では日本が行なってきたような現場での品質向上は考慮されない。そもそもISO方式を各国毎の多様な文化や伝統によって培われているサービス産業に適用することには疑問がある。

    3. さらに、昨年合意されたWTO基本電気通信合意の「参照文書」には、米国の意向を反映して競争条件を確保するためのセーフガード措置を導入すべき点が盛り込まれた。クリントン大統領や米国の関係者は、次期サービス交渉では基本電気通信合意を模範にすべしと言っており、同様の規律策定が、他のサービス分野にも波及する恐れがある。

    4. 以上のように、次期サービス・ラウンドがこれから始まるという見方はのんびりしすぎている。米国はWTO、OECD(規制改革やMAI等)、ISOを三位一体として活用した戦略を着々と展開している。

  4. 日本の対応
  5. 日本の電気通信(暗号技術等)は優れており、ネットワークのデジタル化も既に完了している。このように日本が競争力を有する分野を上手く利用しながら欧州、カナダ、途上国等と協力しつつ、次期サービス・ラウンド交渉へ対応していく必要があろう。


くりっぷ No.91 目次日本語のホームページ