経団連くりっぷ No.92 (1998年12月24日)

なびげーたー

アジア支援策の実行を急げ

常務理事 藤原勝博


  1. 経団連アジア・ミッションは去る10月と11月の2回に分けて、ASEAN諸国と香港を訪ね、政府の指導者や経済人との対話をしてきた。
    日本経済の早期回復への期待、日本政府のさまざまな支援策や現地日系企業の事業、雇用継続に対する感謝と期待の言葉が各地で出た。これに対し、今井団長他参加者は各々の立場から実情を説明し見通しを述べた。

  2. 今回のミッションを通じて、焦点の話題の一つは、アジア経済危機救済のために、300億ドル(3.5兆円)を追加するという「新宮澤構想」であった。第1次ミッションで10月1日、成田空港を発った日の日経朝刊がこれを初めて大々的に報じていたが、その日、香港で飛行機を乗り替え、ハノイに向かう機中で配られた現地の英字紙には、もう「日本、300億ドル追加」と大きな活字で伝えていた。翌2日に会ったベトナムの指導者達はこの構想に関心を寄せ質問をしてきた。われわれとしては、その時点では新聞記事に基づいて話をするしかなかった。
    翌10月3日、米ワシントンでのアジア蔵相・中央銀行総裁会議の後、この構想が発表された。

  3. それから約2カ月後、第2次ミッションが11月25日、マレーシアで経済担当大臣と会った際、当然、この話題になった。大臣は、「今、日本政府の担当者チームがクアラルンプールに来ており、明日、宮澤構想の資金で何を実施するかについて、話し合う」とのことであった。さらに、「自分は5月に訪日、円借款の件で政府関係者にはお願いしてきた。先週のAPEC首脳会議の時、小渕総理から返事が貰えると期待していたが、残念ながら間に合わなかった。未曾有の不況の下で一刻も早く資金がほしい。国内経済がダメなる前に日本の支援策を活用したい。皆さんからも、日本政府にこの願いを伝えてほしい。」と懇願された。

  4. 現在、日本の政治・経済の動静は瞬時に世界中に流れる。関心のある向きは、すぐに対応し動き始める。しかし、日本の方には、公的資金が実際に動く前にさまざまな手続きがある。政治的な意図表明が出てから、厳格な官僚機構の中の行政手続きを経て、実現する、つまり相手国の企業人や労働者が日本の支援を実感するまでには、気の遠くなるような時間がかかる。円借款が2年、3年かかることはよく知られている。さらに最近では官庁の不祥事摘発が盛んで、行政事務の現場は一層、慎重にならざるを得ない。余計に時間もかかる。一方、支援を受ける側は立場上、遠慮がちに言うであろうが、一日も早く現金を手にしたいという焦りもあろう。「アジア危機」支援策をめぐる彼我の緊迫感、時間感覚のズレが心配である。宮澤構想の他にも、430億ドルのパッケージ、日米共同の50億ドルプラン、小渕イニシアチブもよく報道されている。よい話でも、あまり待たされると有り難味もうすれるのではないか。私としては、落着かない気持ちの今日この頃である。


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