経団連くりっぷ No.92 (1998年12月24日)

第557回常任理事会/12月1日

企業金融を支援


常任理事会では、年末から年度末にかけて企業の資金繰りが懸念される中、企業金融の円滑化に関する措置等について、日本銀行の黒田理事より説明を聞いた。

  1. 最近の金融経済情勢
    1. 11月13日の日銀政策委員会・金融政策決定会合において決定した基本的見解においては、「わが国の経済情勢は、依然として悪化を続けている」とし、「生産・所得・支出をめぐる環境は、依然としてマイナス方向に働いている。(中略)企業は、年末・年度末にかけての資金繰りに対する不安感を高めつつ」あり、「こうした厳しい企業金融の状況が、今後、年末にかけてどのように進展し、実体経済にどのような影響を及ぼしていくか、十分注意してみていく必要がある」と結んでいる。

    2. 日銀は95年9月に公定歩合を0.5%に引下げて以降も金融緩和政策を続けている。にもかかわらず、昨秋の大手金融機関の破綻に伴う信用不安の高まりをきっかけに日本経済への下方圧力は一段と高まった。日銀としては、流動性を供給し市場金利を引き下げるため、CPオペを開始し、企業金融の安定回復を支援してきた。また、政府の経済対策も打ち出された。しかしながら、民需の落ち込みのスピードが早く、これらの施策が需要総量の維持・拡大につながっていない。低金利政策の下、ハイパワード・マネーは前年比10%伸びた一方、マネー・サプライ(M2+CD)は、前年比4%程度しか伸びていない。また、名目GDPはゼロあるいはマイナスとなっており、資金が供給されても循環していかない。これは、金融機関の与信能力の低下に加え、企業の資金調達能力も低下しており、市場での信用リスク、流動性リスクに対する警戒感が高まっていることによるものである。

  2. 本年9月までの金融政策運営
    1. このような中で、日銀としては、第1に、昨秋再開させたCPオペは継続している。第2に、ハイパワード・マネーの供給は短期の与信手段で行なうのが原則であるが、中央銀行の資産の流動性低下というコストを払って長めの与信手段によって行なっている。その典型が長期国債の買切りオペの拡大である。これは本来、成長通貨の供給のための措置であるが、流動性リスクへ対処するため、継続している。本年9月までの1年間で、ハイパワード・マネーの増加額4.5兆円を上回る5兆円の買いオペを実施しており、国債は大規模にマネタイズされたことになる。第3に、9月期末の企業の資金繰りに対する警戒感が強かったことから、10月以降に満期を迎える「期越えのオペ」を早くから大量に実施して企業金融の安定に努めた。

    2. 以上の措置にもかかわらず、夏から秋にかけてロシア問題を端緒に世界全体に金融不安が高まり、邦銀の外貨資金繰りが厳しくなった。そこで、9月9日の政策委員会・金融政策決定会合では、無担保コールレート(オーバーナイト物)を平均的にみて0.25%前後で推移するよう促し、金融市場の安定を維持する上で必要と判断されるような場合には、その誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行なうことを決めた。

  3. 企業金融円滑化のための措置
    1. 10月以降、大企業を含めて企業の資金繰りが一層厳しくなった。そこで、11月13日の政策委員会・金融政策決定会合において、3つの措置を決定した。

    2. 第1は、CPオペの積極的活用である。まず、買入れ対象となるCPの残存期間を「満期日が買入れの日の翌日から起算して3カ月以内に到来する」ものから、「1年以内に到来する」ものへと拡大した。また、CPの発行企業の適格審査期間を、従来の平均1カ月から最短で1週間へ短縮することとした。本措置は11月16日から実施しているが、5〜6カ月もののCPを発行する企業が増えており、措置の効果が現れている。

    3. 第2は、主に中小企業を念頭に置いた臨時貸出制度の創設である。これは、11月あるいは12月の貸出平均残高の9月末対比増加額の50%を年度末越えの4月までリファイナンスするものである。なお、企業向け貸出しのインセンティブとなるよう、担保価額の50%以上は、民間企業債務を差し入れることを条件とした。12月21日に本制度に基づく第1回の貸付を実行する予定である。本措置はあくまで臨時措置であり、市場介入はオペを通じて行なうという原則に変わりはない。

    4. 第3は、社債および証書貸付債権を根担保として、金融機関が振り出す手形を金利入札方式で買い入れるオペレーション手段の導入である。社債等の流動性が乏しいことを逆手にとって、根担保として利用することとした。ただし、競争入札方式なので、他の金融機関より条件が悪いと資金を調達できない。来年のできるだけ早いうちに実施に移したい。

  4. 企業金融と中央銀行の健全性等
    1. 以上の措置を講じるにあたっては、企業金融の支援と中央銀行としての日銀の資産の健全性をいかに両立させるかに意を用いた。特に日銀の資産の健全性については、海外からの注目度も高い。中央銀行の信用度が低いと思われることは、その国の金融機関、企業の資金調達にもマイナスの影響が及ぶ。日銀としては、受入れ資産の適格性については、従来の基準を変えていないが、今後も粘り強く、一連の措置の意図、内容を説明していきたい。

    2. 中央銀行が民間債務を持つことは問題であるとの指摘が一部にある。しかし、中央銀行による民間債務の保有を禁じている国はない。民間債務の保有を禁じたとすれば、中央銀行としては国債を買う以外に手段はない。また、中央銀行の役割は、流動性の供給であって、企業金融に関与すべきでないとの指摘もある。しかし、中央銀行による与信方法として望ましいのは、オープン市場におけるオぺレーションであり、この場合、銀行への流動性の供給と企業金融の双方に直接働きかけていることになるので、両者を別物として区別する考え方は成り立たない。ただし、わが国では、真のオープン市場が十分に整備されていない。日銀としては、オープン市場の整備の一環として、FBの公募入札による発行と差別的でない税制の実現に向けて努力していきたい。


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