経団連くりっぷ No.92 (1998年12月24日)

日本ブラジル経済委員会(委員長 室伏 稔氏)/11月27日

財政安定化計画の実現に強い決意

−第2次カルドーゾ政権の経済政策についてランプレイア・ブラジル外務大臣と懇談


来日したブラジルのランプレイア外務大臣を迎え、昼食懇談会を開催した。大臣は第2次カルドーゾ政権の最重要課題として、財政安定化計画の実現をあげた。そして、99年は厳しい経済運営を強いられるが、これを乗り切ればブラジル経済はふたたび成長軌道に戻ることが可能であると強調した。

  1. ランプレイア外務大臣説明要旨
  2. ランプレイア外務大臣

    10月の大統領選挙キャンペーン中、カルドーゾ大統領は経済危機を乗り越えるため、当選後は厳しい緊縮財政とすることを明言していた。にもかかわらず1回目の投票で当選したことは、有権者が大統領のリーダーシップを認めたということであり、注目に値する。
    国会では与党が多数を占めたが、いくつかの重要な州知事選挙で野党が勝利した。州レベルでも緊縮財政により財政赤字の解消を目指すべきであり、与野党の協力でこの危機を乗り越えねばならない。
    経済面では、インフレ率は5年連続して低下している。また民営化により、現在までに約680億ドルの収入が国庫に入り、今後も400億ドルを超える収入が見込まれている。民営化は財政赤字の一部解消と国内産業のリストラをもたらした。市場開放政策により、90年代の初めには6%程度であった輸入品のシェアは、現在20%程度と約3倍になっており、輸入品との競争によって、国内産業の生産性が大幅に向上した。95年以降の海外からの直接投資は500億ドルに上っているが、うち半分にあたる250億ドルが98年に投資されたものである。
    他方、マイナス面としては、経常赤字および財政赤字のいわゆる双子の赤字の問題がある。この問題の解決は第2次カルドーゾ政権の最重要課題であり、その意味で今回のIMFとの合意内容を今後の経済政策の指針とし、財政の健全化を進めていく。短期的な目標としては、現在GDP比7%に達している財政赤字を、99年に4.7%にまで削減する。また公共債務残高をGDP比46%に下げることを目指しているが、これはマーストリヒト条約が通貨統合への参加の条件として掲げている60%よりはるかに低い数字である。
    経済安定化政策を前倒しして実施するため、99年は緊縮財政により厳しい年となることが予想されるが、これを乗り越えれば、ブラジル経済は安定を取り戻す。特に、現在50%近い高金利をできるだけ早い時期に、危機が発生した8月以前のレベルまで低下させることが重要と考える。
    対外要因では、米国の好景気が持続するか、欧州やアジア経済の回復が軌道に乗るか等が、ブラジル経済に大きな影響を及ぼすことになろう。

  3. 質疑応答
  4. 経団連側:
    最近、日伯経済界は以前に比べ相互に対する関心が薄れているのではないかという声を耳にするが、両国企業の関係をどう見ているか。
    ランプレイア大臣:
    原因として考えられるのは、第1に、日本企業は70年代にはブラジル経済の中で大きな地位を占めていたが、ブラジルにおける80年代の経済混乱や最近の経済危機等が原因で、日本企業のブラジルに対する信頼が揺らいでいるのではないかということである。これに対し、ブラジル政府は現在実施している経済対策の実効性を高め、信頼の回復に努める。第2に、従来日本企業がパートナーとしてきた国営企業の民営化により、状況が変わったということである。この点については、日本側が状況を理解し、認識を改め、適切な対応をとることを期待している。第3は、現在の両国の経済事情である。ブラジルの経済回復、安定化のプロセスは、自国のみならず少なくとも南米を視野に入れて地域的に進める。地域経済統合は現在は通商面が中心だが、今後エネルギー、流通などの面へ拡大していきたい。具体的には天然ガス、石油、電力の相互融通などを想定している。

    経団連側:
    日本経済、特に金融システム不安に対するブラジル側の見方はどうか。
    ランプレイア大臣:
    金融セクターで重要なのは健全性の確保である。現在の超リベラルな市場に任せていては良い結果は得られないだろう。日本において、金融機関に対する公的資金投入について批判の声があることは承知しているが、国民の金融機関に対する信頼が失われることの方が問題である。公的資金を活用して信頼の回復ができれば、良い税金の使い方ではないかと思う。

    経団連側:
    米州ではNAFTA、メルコスールを核とした地域経済統合があり、他方、メルコスールはEUと自由貿易協定を締結することを目標とした枠組協定を結んでいる。こうした中、アジア、日本に対する関心が相対的に低下しているのではないか。
    ランプレイア大臣:
    地域経済統合について、ブラジルが正式にコミットしているのはメルコスールのみである。FTAA(米州自由貿易地域)はブラジルにとって優先度の高いものではなく、またEUとの関係は、FTAAとのバランスを取るためのものと考えている。ブラジルは多方向の通商に目を向けており、伝統的な友好国である日本を除外しようなどという考えはまったくない。

    経団連側:
    現在、江沢民国家主席が中国からの最初の国賓として来日しているが、ブラジルと中国の関係はどうか。
    ランプレイア大臣:
    両国の外交関係は比較的新しいが、良い方向に進んでいる。優先的な課題が2つある。第1はエネルギー、電力関係で、ブラジルの水力発電や長距離送電の実績に中国が興味を示している。第2は宇宙開発の分野で、衛星の共同開発やロケットの共同打上げ等を考えている。
    他方、通商面では中国の関税が高いことが障壁となっている。ブラジルが競争力を持っているオレンジ、インスタントコーヒー、植物性油脂、大豆等を中国に売りたいと考えているが、結果は芳しくない。

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