経団連くりっぷ No.93 (1999年1月14日)

来賓挨拶

99年度は、政策の成果が花開く年に

内閣総理大臣 小渕 恵三


小渕 内閣総理大臣

私は、経済政策を3つの柱に沿って進めている。第1の柱は、信用収縮・貸し渋り対策である。金融機能再生法と金融機能早期健全化法が成立し、金融機関の破綻処理と不良債権の処理を早急に進めるための体制を整備した。今後は、これらの制度を適切に運用することが重要である。「産業を育むこと」が金融機関の本分であり、「貸し渋り」が問題になる現下の状況は、金融機関にとっても本意ではないはずである。各金融機関は、その社会性・公共性を自覚し、今こそ競争力ある強靭な組織に脱皮するチャンスであるという前向きな姿勢で現状を捉えていただきたい。
私は、総理就任以来、厳しい環境の下で懸命に努力している中小企業の方々の「生(なま)」の声に耳を傾け、こうした中小企業などに対する資金供給を円滑にすることが喫緊の政策課題と判断し、特別の信用保証制度に大胆に資金量を確保し、金融機関が融資をしやすくする環境を整えた。すでに、多くの中小企業が利用し、98年11月末までに31万件、7兆2,000億円を超える保証実績を上げている。今後とも、旧債務の「付け替え」という制度の悪用を監視していくとともに、政府系金融機関等の融資・債務保証を総動員して、貸し渋り対策に万全を期していく。事業者の方々には、安心して事業を行なっていただきたいと考えている。

第2の柱が、需要創出である。政府の緊急経済対策は、国と地方合わせた財政負担額が10兆円を超える規模となっており、総事業規模では17兆円超、恒久的減税等を含めると27兆円を超える、これまでにない規模である。今般の対策の特色は、平成11年度に「はっきりしたプラス成長」に導き、12年度には「経済を回復軌道」に乗せる、との経済回復の道筋を明記したことである。私がこのような異例とも言える内容を盛り込んだのは、「経済再生」に取り組む政府の強い決意を内外に明らかにするとともに、先行きの不透明感からくる不安を払拭することが不可欠だと考えたためである。
税制面では、平成11年度税制改正において9兆円を超える減税を決定した。これは、かつてない規模であり、短期的にも構造的にも経済の活性化に寄与するものと確信している。

第3の柱が、経済構造改革である。近年わが国では、開業率が低下し、廃業率との逆転現象が起こるなど、経済の硬直化が進行しているのではないかと強く危惧している。起業家精神の発揮による新事業への挑戦は経済活力の源泉であり、現在の事態が続けば産業基盤の脆弱化が避けられない。
このため、政府としても、経済構造改革に全力を挙げている。99年1月には、新事業の創出による良質な雇用の確保に重点をおいた「産業再生計画」を策定し、先の臨時国会で成立した「新事業創出促進法」に基づき、ビジネスを始めようとする個人に対する新たな信用保証制度を創設する等、大胆な施策を講ずることとしている。
また、個人所得課税は、平成11年から最高税率の水準を50%に引き下げるなど4兆円規模の恒久的な減税を行ない、法人課税は、平成11年度から実効税率を40%程度に引き下げる。このような税制改革により、わが国の事業環境の魅力が増すとともに、努力するものが報われ、国民の意欲を引き出す税制が構築されることになる。
今回の税制改正では、

  1. 2001年を目途に連結納税制度の導入を目指す、
  2. 確定拠出型年金の導入に向けた税制上の検討を行なう、
  3. 試験研究税制の抜本的拡充を行なう、
など、経済の変化に対応してひとつの節目となるべき制度改革を示している。これらにより、経済構造改革を強力に後押しすることになると考えている。

私は、民間経済界の積極的取組み、政府の断固たる政策の展開により、99年度はこれまでの成果が花開く年にしたいと思うし、それができると確信している。99年度経済見通しでは、成長率を0.5%と、はっきりとしたプラス成長と見通したところである。
アジア経済の安定は、共にアジアを支えるリーダーとしての日本の役割であり、また、相互に強い依存関係をもつわが国自身にとっても緊急の課題である。私は、従前からの総計440億ドルに上る支援策に加え、新たに300億ドル規模の資金支援スキームの実施などを決定した。また、大規模な研修事業や、融資制度の創設・拡充を通じた現地の日系企業などに対する支援策、経済構造改革を進めるための特別の円借款制度の創設を決定した。私は、現地に踏み止まり、懸命の努力を続けている日系企業も念頭に置きながら、引続きできる限りの支援を行なっていきたいと考えている。


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