経団連くりっぷ No.93 (1999年1月14日)

来賓挨拶

長期的には楽観し、短期的には用心深く経済運営を行なう

経済企画庁長官 堺屋 太一


堺屋 経済企画庁長官

日本経済は現在大変深い不況に陥っている。経済企画庁の予測では、98年度の実質経済成長率は-2.2%となっている。IMFも-2.3%と予測しており、われわれの見通しとほぼ同じである。四半期別の実質経済成長率も、4四半期連続マイナスという厳しい状況である。ただ、最近の経済指標をみると、悪化を示すような数字もある一方で、わずかながら回復の兆しをみせるような動きもあり、新しい胎動が感じられるようになってきた。
1993年以来、政府は7回にわたり約80兆円の不況対策を行なってきた。その結果、94年、95年にはかなりの回復をみたが、すぐ腰砕けになり、おしなべてみると平成の10年間は低い成長率となっている。
そこで小渕内閣は、発足と同時に、なぜこのように景気対策が効かないのか、どこに本質的な欠点があるのかを検討した。その結果、最大の問題は金融であるという結論に達した。1980年代に膨らんでいた金融業の貸出し残高が、90年代には大幅に縮小しており、信用収縮がいたるところで起きているため、政府が対策を打っても効果が出ないのではないかと判断した。そこで、60兆円に及ぶ金融再生および早期健全化スキームを作った。60兆円という金額は、金融対策としても史上最大であるし、GDP比12%という割合も他国に見られない高い水準である。あわせて、中小企業等への貸し渋り対策として、保証制度や政府金融機関を通じた融資などを大胆に行なった。現に各都道府県、政令指定都市の行なっている中小企業に対する信用保証が、かなりの効果を上げている。

次に、問題は需要不足であるということで、98年11月の緊急経済対策において17兆円、恒久的減税を加えると27兆円という需要喚起策を講じた。この中で8兆1,000億円の社会資本の充実をはじめとする、さまざまな対策をとった。対策を考える際には、

  1. 即効性、
  2. 波及性、
  3. 未来性、
の3つを重視した。即効性という観点から、従来型といわれる事業も残す一方で、
  1. 電子立国の形成、
  2. 都市交通条件の改善、
  3. 安心ゆとりの生活、
  4. 流動性のある高度雇用、
という4つの未来先導型テーマを設定し、総理大臣の直属のバーチャルエージェンシーとして各省の枠組みを超えたプロジェクトを作った。これはまだ予算の一部ではあるが、こうした試みが始まったことにより、各省は次の予算要求の時に、古いものを残すか、新しいものを継続するか、選ばなければならず、非常に大きな変化の導火線になると考えている。

3番目に、減税を大々的に行なった。恒久的な減税で所得課税・法人課税をあわせて6兆3,000億円、そのほかに約3兆円の特別減税を行なった。その中には、住宅ローンに対する15年間にわたる所得控除や、100万円以下のコンピュータの単年度償却、子育て減税などの大胆な施策を盛り込んだ。
このような大幅な減税を行なったことは、小さな政府を目指す小渕内閣の姿勢を示している。小渕内閣は、大変な熱意と着実なスケジュールをもって行政改革を進めている。99年4月に各省設置法を設けるが、特にその中で権限規定を廃止することを基本方針として決めている。

これだけのことをすれば、99年度は経済成長率がプラスになると私は考えている。IMFの見通しでは、99年度-0.2%だったが、経済企画庁は0.5%と予測している。プラスになる自信は十分にある。
だからといって、すぐ明日からよくなるわけではない。経済学的には、「夜明けの前は一番暗い」という。これからの日本経済は、これまでのように輸出先導型ではなく、内需主導の回復を図らなくてはならない。そのためには企業が利益を得なければならず、人員や事業を整理するリストラの段階が必要である。しかし、雇用や事業の縮小と並行して公共事業の下支えがあり、その後に耐久消費財の消費が回復し、設備投資が増えて、やがて景気が回復すると思う。
大幅に減税したら、将来大増税するのではないかと心配する人も多い。しかし、米国の例を見ると、81年には70%だった最高税率を50%に、86年にはこれを28%にまで引き下げた。その後多少増税をして、現在最高税率は39.6%であるが、70%と比べるとかなり低い水準である。それにもかかわらず、双子の赤字を抱えていた米国経済が今は約800億ドルの財政黒字になった。これをみても、先々まで日本はだめだと言う必要はない。長期的には楽観して、短期的には用心深く経済運営を行なっていきたい。
夜明けの前は一番暗い。苦しい時にはそう言いながら、明るい朝の来るのを期待したい。


くりっぷ No.93 目次日本語のホームページ