経団連くりっぷ No.93 (1999年1月14日)

来賓挨拶

日本も構造改革の強力な推進を

駐日欧州委員会代表部代表・大使 オブ・ユールヨーゲンセン


ユールヨーゲンセン 駐日欧州委員会代表部代表・大使

  1. ユーロ導入とその将来
  2. 99年1月にいよいよ欧州統一通貨であるユーロが導入される。ユーロは取引、投資、金融などの手段として大いに利用されるようになり、国際的な金融市場の安定にも寄与することになろう。
    EMU(Economic and Monetary Union−経済通貨同盟)の結成は政治的動機ということもあるが、経済的利点が明らかであるので粘り強く追及してきた。企業にとって、ユーロ圏内の取引で為替リスクが取り除かれるメリットは大きく、マクロ経済も安定感が高まる。欧州は、経済的には統合の度合いを増しているが、その経済運営は統合されていないという奇妙な状況にあった。欧州中央銀行(ECB)は独立性が保証され、第一に物価の安定に取り組むことになっており、欧州経済の安定に大いに貢献できる。
    国際的には、円や米ドルとの関係でユーロの役割に対する関心が高まっている。ECBは中立の立場を堅持し、現時点において、EU加盟国以外の国との公式な為替レートの取り決めに参加することは予定してしない。ただし、ECBの金融政策とユーロの為替レートとの間に、明白かつ持続的な乖離が発生した場合には、介入を決定することもあり得る。
    ユーロ発足の心理的影響について大事なことは、ユーロによってEUが初めて「目に見える」存在になることである。ユーロは多くの欧州市民にとって、一体感の持てる初めての象徴となろう。

  3. 日本のヒントになる欧州における構造改革の成功
  4. 1970年代と80年代の欧州は、政治的にも経済的にも大変厳しい時代だった。繁栄を謳歌した戦後のブームは過去のものとなり、「欧州硬化症」が問題となった。そして、考えられたのが構造改革のための市場統合プログラムである。その主な特色は、

    1. 基準と認証の相互承認にくわえ、規制緩和の原則を中核に据えた、
    2. 改革は一部の限られた部門にとどまらず、経済のあらゆる部門を対象とした、
    3. 環境の変化に対応できる能力を経済に与えた、
    ことである。
    この改革プログラムは開始から丸2年で、約60万人の雇用を創出した。今後もこのプログラムは継続されることとなっており、欧州経済はさらに効率化が進むだろう。
    今日の日本は1970年代、80年代の欧州と共通点がある。硬化症である。日本型経済モデルは、過去においては大きな果実をもたらしたが、現在では機能しないにもかかわらず、放棄することが難しくなっている。これが、日本が直面する危機の背景に存在する根本的な問題であると思う。欧州が進めた規制緩和と構造改革は、経済再建の土台となるものである。信念を持って規制緩和を含む構造改革を精力的に進めることは、日本経済への信頼回復にとって強力な推進力になると信じている。来世紀初めには、日本が強固かつ自立した持続的な成長軌道に乗っていることを希望している。

  5. 今日の欧州連合
  6. 今や欧州連合は、経済統合と地理的広がりにおいて「クリティカル・マス」、つまり成果を得るために十分な規模を確保した。欧州連合はもはや「未来形」ではなく「現在形」で語れる存在になったのである。


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