経団連くりっぷ No.93 (1999年1月14日)

日本イラン経済委員会(委員長 相川賢太郎氏)/12月22日

ハラジ・イラン外務大臣との懇談会

−イランの近況と日本イラン経済関係の展望


イランは、日本の原油需要の10%を供給しており、わが国にとって重要な石油輸入先国である。日本イラン経済委員会では、本年7月、同国に相川委員長を団長とする経済ミッションを派遣する等の活動を通じて、同国との経済関係拡大を図ってきた。このたび、高村外務大臣の招待に応じて訪日したハラジ外務大臣を招き、話を聞くとともに意見交換した。以下はハラジ大臣の発言要旨である。

    ハラジ外務大臣

  1. 主要貿易相手国との良好な関係を維持
  2. 日本イラン経済関係は、歴史的にも緊密化の方向にある。イランの指導層は、海外のパートナーとの戦略的な協力関係を強化していく必要があるとの理解で一致している。イランの発展のためには、イランを含む地域全体が平和で安定していることが極めて重要である。これは同時に、地域全体の平和と安定のため、世界の主要産業国との連帯・提携が必須であることを意味している。
    幸いなことに、欧州諸国をはじめとした先進工業国のイランをみる目は変わってきており、徐々にイランに進出するようになってきている。

  3. イラン経済社会の近況
    1. イランは、イラクとの戦争が終結してから今日までの10年間、国家再建につとめてきた。再建のための投資額は1兆ドル相当にのぼる。再建がかなったイランは、ようやく国家目標へ向けての歩みを始める段階に至った。

    2. 過去5年間を通じて、イラン国民に対して制度的な強制を行なうことなく、人口増加率を3.6%から1.8%に引き下げることに成功した。マクロ経済運営についても、95年に50%を超えていたインフレ率を、97年には17.2%に収束させることに成功した。中東では最も成功した例だといえる。本年についても、適切な財政および金融政策により、油価の低迷という問題を抱えているが、インフレ率は20%台に収まると予想している。

    3. イランは、エネルギー資源の埋蔵量が世界第5位であり、原油埋蔵量では世界の10%、天然ガスについては14%である。しかし人口は世界の1%に満たない。これは来世紀には、イランが世界の主要エネルギー輸出国たりうることを示している。またイランはペルシャ湾岸から中央アジアに至る世界のエネルギー埋蔵地帯の中心に位置している。中央アジアおよびコーカサス諸国に対するアクセスは、イラン経由が最短であり、経済的にも最適である。昨今、イランを巻き込んだ形で、これらの国々との経済協力関係が強化されつつある。

    4. イランは、中央アジアに隣接する北部国境ならびにペルシャ湾に面する南部国境を中心に、自由貿易地域を創設しつつある。地政学的に重要な位置と、この制度が組み合わさることによって、地域内の貿易が一層盛んになることが予測されている。

    5. 油価の急速な低下は、イランの財政状況を悪化させている。しかし、94年の経済危機の際に、IMFやパリクラブに頼らずに問題を処理したことにより、イランの危機処理能力が高いことは実証されている。イランは、主要貿易相手国と緊密な連携を保ちながら、問題を確実に処理し、輸入を削減すること無しに経済開発を達成したい。イランの輸入は年に150億ドル程度を維持したく、また外貨準備は国策として輸入代金の3カ月分を維持していく。

    6. イランの抱える債務は120億ドルに過ぎず、これはGDPの10%未満にすぎない。外貨準備については、97年には37億ドル、98年には17億ドルを債務返済にあてた。これとは別に、フランス市場を通じて、15億ドル相当の石油代金の前払いを受け、これも債務返済にあてた。ただし、この2つの方法を通じてもなお、期近な債務30億ドルが不足しており、各10億ドルのつなぎ資金融資を日独伊に働きかけている。ドイツとイタリアについては、交渉はほぼまとまっている。

    7. 国営企業の民営化と民間の積極投資の下、イランは石油収入に対する依存度を下げ、税制改正によって財政資金を確保し、経済危機に対処していく所存である。

  4. 最近の日本イラン経済関係
  5. イランにとって日本は、79年の革命以来、常に最も重要な貿易相手国である。97年の貿易高は、44億ドル余と、96年から11%増加した。石油を中心としたイランの対日輸出は、35億ドル余にのぼる。しかしこの数字は決して満足できるものではない。石油以外の対日輸出拡大に際しては、日本側の植物検疫の対応の遅れから、イランの農産品の対日輸出が難しいという問題がある。
    両国間の産業協力は、極めて幅の広いものになっている。今後協力が可能な分野としては、石油・エネルギー、鉱山、輸送、環境、貿易、金融等が考えられる。さらにイラン国内における機械製造、家電製造等が考えられる。
    現在の両国関係の問題点は、日本の対イラン投資が少ないことと、日本政府の支援が十分に得られないことである。今般、対イラン中長期貿易保険が再開することとなり、今後、日本企業の投資意欲が増すことに期待している。イラン政府としては、外国企業の投資を歓迎しており、ハタミ大統領の経済改革計画の目的は、投資環境の整備である。日本には、イランとの協力関係強化に向けて、一層の努力をお願いしたい。両国間には大きな可能性が存在する。


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