経団連くりっぷ No.93 (1999年1月14日)

首都機能移転推進委員会企画部会(部会長 橋本 章氏)/12月14日

分権型国家づくりと首都機能移転
−堀江湛政府地方分権推進委員会委員長代理と懇談


政府国会等移転審議会では、現在、調査対象地域に関する現地調査結果のとりまとめを進めるとともに、新都市の理念などについて、より詳細な検討を進めている。首都機能移転推進委員会企画部会では、こうした動きにあわせて、新都市像のあり方に関する検討を進めているが、12月14日には、地方分権推進委員会委員長代理で、国会等移転審議会委員の堀江湛杏林大学教授と意見交換を行なった。

  1. 堀江教授説明要旨
    1. 首都機能移転と新都市の機能
    2. 国会等移転審議会では2004年度以降に首都機能移転に伴う新都市の建設を始め、最大人口約60万人程度、面積約9,000haの都市をつくることを目途に議論を進めている。しかし、この新都市の規模は国の行政の方式、行政組織の再編などによって大きく変わってくる。
      移転すべき機能として、国会とともに官庁の企画立案部門が移転することは不可欠であり、企業も必要に応じ出張所を設けることになるだろう。だからといって東京と同じような都市をつくってもしかたがない。「ナショナルミニマム」の行政サービスが効率的かどうかを見直し、中央で全てを決める仕組みを改めることが必要である。日本の行政組織、行政手法に規制緩和と地方分権のメスを入れ、スリム化された政府、規制緩和社会、分権化された社会を実現してこそ首都機能移転が現実性を持つのである。

    3. 権限移譲のあり方
    4. 地方分権の最大の課題は、国の権限をどこに移すのか、ということである。日本では市町村が基礎的自治体とされている。「市」は国の法律によって人口や都市化の程度を基準として設定されており、人口については4万人(ただし、今回の法改正で3万人)あれば市に昇格できる。米国では、人口1,000人程度でも数百万人でも州が許可すれば「市」となることができる。米国では州が強力な権限を持ち、ワシントンの政府は州間の調整をすることが主たる行政事務である。州の行政事務範囲は広く、連邦憲法に書いていない事項は州が行なうことになっている。市も大きな権限を持ち、一般的に業務内容を州に詳しく報告して許可を求める義務はなく、財政破綻で市が倒産することもある。日本の都道府県の行政事務は法律で定められた権限についてのみで、法律上は都道府県と対等なはずの市町村も事実上、都道府県の監督下にある。
      米国では州、市の権限がそれぞれ強いために、連邦法の解釈などをめぐって訴訟が多い。事後的規制が重視される英米法の影響も大きい。日本では事前規制の裁量行政の下で、国の有権解釈が通達等を通じて自治体に浸透しており、国と自治体とで解釈論が食い違うことは滅多にない。そもそも知事の仕事の8割が機関委任事務、すなわち国の仕事そのものだといわれてきた。
      97年7月の地方分権推進委員会第2次勧告では、機関委任事務を廃止(代わって法定受託事務を設定)し、大幅に権限委譲をするとともに、知事の仕事に占める国の仕事の割合を従来の3分の1に抑え、残りは自治事務とするよう提言した。98年10月の第5次勧告では国の直轄事業の削減を訴えた。しかし、機関委任事務の廃止に賛成した地方自治体も、直轄事業の削減については、地方負担の増加につながるとの警戒感から、批判が多かった。このことは、権限の移譲とともに財源の問題を解決することが必要であるということを意味するであろう。

    5. 財源の配分問題
    6. 日本の戦後行政の主要課題のひとつは産業政策であり、工業の近代化を通じての日本の高度成長、勤労者の所得水準の向上をもたらした。もうひとつの課題は社会資本の整備である。社会資本整備にあたっては都市と農村との格差是正が課題となる。
      都市では産業政策の成功による生産性の向上がもたらされたが、農村では土地の狭さ、法人を含めた自由な売買などに対する制約要因から、十分に生産性が上がらず、政府は、都市と農村の勤労者の所得水準を調整するために、生産者米価の引き上げ等の策を講じた。その結果、農民は都市勤労者同様に豊かになったが、付加価値の高い地域産業の成長が伴わず、富裕自治体とそうでない自治体との格差が生まれ、これを是正することが必要になった。
      そこで政府は、1960年に地方交付税制度をつくり、自治体が国の機関委任事務を遂行する上で必要な財政需要と、その自治体の財政収入との差額を各自治体に配分することとした。現在、国の予算の4割弱が地方への交付金・補助金であり、全国の3,300市町村のうち、最も規模の小さい自治体330の歳入に占める地方税収は平均6%でしかない。
      地方分権、首都機能移転を進めるためには、自治体が交付金、補助金の獲得運動をしなければならないという国依存の財政体質を変える必要がある。例えば消費税、ガソリン税のような地域格差のない税と所得税のように地域格差のある税との仕分けや、付加価値税のあり方など税の性格の整理などを行ない、財源問題を解決すべきである。

  2. 懇 談
  3. 経団連側:
    国会等移転審議会では、分権型国家のあり方、新首都の備えるべき機能については検討しているのか。
    堀江教授:
    分権型国家が誕生することは前提となっている。機能については専門委員会をつくって検討している。また、新都市の候補地は各自治体にまたがっているものが多いが、新都市地域に新しい自治体をつくるのか、国の直轄地域のようなかたちにするのかという議論も残されている。

    経団連側:
    新都市の選定にあたっての東京都との比較考量はどのように行なうのか。
    堀江教授:
    東京一極集中是正は地方分権の課題でもある。国土の防災性の向上を図る上で、東京の防災性を向上する方が効率が良いとの考え方もあるが、密集市街地の再開発をどう進めるのかを考えると、たやすい問題ではない。審議会全体の議論の大きな流れは新都市の建設の方向にあるようだが、東京の実態も踏まえて比較考量する必要がある。また審議会委員の中には、広範な国民世論の動向について、さらに検討すべきだといった意見もある。


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