経団連くりっぷ No.94 (1999年1月28日)
なびげーたー
産業本部長 永松恵一
安全保障をめぐる論議や政策の展開が幅を広げつつあるが、他方、危機に直面する防衛技術・生産基盤の維持が重要な課題となりつつある。
防衛生産は、一般的に高度技術産業として特徴づけられるが、日本の場合、これに加えて、
先般の事件は、一般的にみて、稀有のことである。通常、調達契約は、厳しい原価計算と監査を経て行なわれ、加えて、企業では労務管理や税務調査への対応を別途行なっており、原価等を歪める余地はあり得ない。今回の事件を契機に規制が一段と厳しくなることが懸念されるが、調達実施本部における契約と原価監査・計算部門の分離、慣行・裁量による査定の排除が基本である。実際原価が予定価格を超えても、歳出予算が上限とされる一方、予定価格以下で製造できれば、予算との差額は国庫に返納される仕組みも検討の余地がある。コスト削減のインセンティブを働かせるには、報償制度等を導入する必要があるが、基本的には〔コスト+利益=価格〕という現行方式を改め、〔価格−コスト=利益〕という一般民需品の方式とし、コスト削減の努力が利益に反映される仕組みが重要である。そのためには、現在、契約額の85%強が随意契約となっている状況を改善してできるだけ競争環境を整備し、競争入札、当初確定契約を導入していくことが必要である。
欧米各国においても、国防予算は縮減を余儀なくされ、防衛産業の再編成が進められているが、基本的には、国家として、防衛技術・生産基盤の維持を重要な政策課題としている。先日来日したフランスのリシャール国防大臣は、「国防政策に関しては、政党間に基本的な差異はない。また産官あげて国防技術の優位を目指しており、防衛産業はハイテク産業として国民から信望を得ている。」と話していた。
防衛技術・生産基盤は、安全保障の重要な一翼を担っており、競争条件の導入が必要であっても、コストの観点から輸入だけに頼っていては成り立たない。情報衛星の導入、BMD(弾道ミサイル防衛)の日米共同技術研究の予算化や日米ガイドラインの見直しを一つの契機として、わが国の防衛のあり方のみならず、防衛技術・生産基盤について冷静な議論が行なわれることを期待したい。