経団連くりっぷ No.94 (1999年1月28日)

マイケル・ベローフ オックスフォード大学トリニティカレッジ学長講演会/1月7日

英国経済における法の果たす役割について


ヨーロッパ地域委員会(座長:若井ヨーロッパ地域共同委員長)では、著名な法律家でもあるオックスフォード大学トリニティカレッジのマイケル・ベローフ学長を招き、「英国経済の再生と法の役割」ついて講演会を開催した。

現在の英国は、70年代に言われ続けたような欧州の中の病人ではない。どのような経済指標に照らしても、以前より豊かな国になったと言ってよい。そして英国の経済発展において法の果たした役割もまた、大きい。

  1. 法は経済成長に関係のないさまざまな分野にも関わる
  2. 一般的に、法は他人の不正行為に対して、傷つけられた人を救済するということに関わる。例えば、契約法や不正行為法において、契約違反、あるいは民事上の不法行為、肉体的な損傷、経済的な損失を与えたことに対し、弁償、賠償が与えられるべきだといったことである。

  3. 法が経済成長における唯一の主たる原動力ではない
  4. 法が国家の経済における成功の主たる原動力になるというわけではない。ときに、物理学者や化学者等の発見、あるいは技術者の発明、実業家の野心、または金融関係者や投資家の知恵、労働者の勤勉性、そして国家の財政調整策、金利の調整策、高度な経済技法によって、そして政治家がときにこれらのことを推奨することによって、経済成長はもたらされているのである。

  5. 法には経済成長以外にさまざまな目的がある
  6. 法の目的が多様、複雑であるということはさまざまなレベルで裏付けられる。例えば、ローマ条約にも記載されているとおり、EUの主たる目的の一つに「経済活動の発展は調和やバランスのとれた形で成長し、それが持続可能でなければならない」とある。それに従い、欧州委員会は社会的保護、そして高水準の雇用を目指さなければならないのである。よって、EUは、単に共同市場を目指すだけでなく、同時にこれらのことも踏まえなければならない。社会的な目的も経済的な目的と同様に重要なのである。

  7. 法はときに経済成長と矛盾することがある
  8. 英国の企業も社会憲章や最低賃金制あるいは、職場における公平性等の法律によって大きな負担を課せられることがある。例えば、時短や育児休暇の延長などに対する裁判所が与える賠償額に上限を課さなければ、企業に大きなコストを負わせることにもなりかねない。そしてそのことによって、英国経済は欧州の中で動脈硬化症におちいることになりうるのである。

  9. 英国における法制度も改革の必要がある
  10. このように経済とのバランスを考慮しながらも法秩序を守る上で、英国政府は法制度に対し、引き続き十分な改革の為の投資をする必要がある。


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