経団連くりっぷ No.94 (1999年1月28日)

在中南米諸国大使との懇談会(座長 高垣 佑氏・槇原 稔氏)/12月11日

わが国企業のより積極的な対中南米戦略を期待


在中南米諸国大使会議に出席するため帰国中の各国大使ならびに阿部外務省中南米局長を招き、中南米主要国の政治・経済の現状と展望およびわが国の対中南米外交方針について説明を聞くとともに懇談した。欧米各国が官民をあげて中南米地域に対し積極的なアプローチを行なっているなか、わが国としても貿易・投資拡大に向けた具体的な対応が必要である旨、多くの大使が強調した。

  1. 阿部中南米局長説明要旨
  2. 今回の大使会議では、中南米諸国の政治・経済情勢、わが国の経済協力等について議論が行なわれた。中南米地域との地域統合を視野に入れて、米国、EUは積極的なアプローチをかけている。これに対し、わが国としてこうした動きに乗り遅れるべきではないとの意見がでる一方、WTO体制を中心とする自由主義はある種の歴史の教訓であり、簡単に動くべきではないという考えも示され、明確な結論は出なかった。今後とも議論を続ける必要があろう。

  3. 木島在アルゼンチン大使説明要旨
  4. アルゼンチンでは、政治面では民主主義の定着、強化、経済面ではインフレ率の低下と経済成長が実現している。こうしたなか、欧米諸国とは対照的にアルゼンチンにおける日本企業のプレゼンスは徐々に低下している。今回の大使会議で、ハイレベルの人物交流や、民間の投資促進支援の見地からの輸銀融資および貿易保険の拡充を、政府としての対応として要望した。経済界としても積極的な対応をお願いしたい。

  5. 中村在チリ大使説明要旨
  6. 97年の本会合で、チリ政府が鉱業税を導入しようとしていることを報告したところ、早速企業側から懸念の表明があり、官民が連携して導入を阻止することができた。
    ピノチェット逮捕事件について、チリ国民はこの問題を冷静に受け止めている。経済界は今日のチリ経済繁栄に対する功績から、ピノチェットを全面的に支持しているが、英国やスペインとの貿易、投資関係に及ぼす影響については懸念している。

  7. 水谷在ブラジル臨時代理大使説明要旨
  8. ブラジル政府の財政緊縮政策と、それを前提としたIMF主導の総額415億ドルにのぼる金融支援が発表されたことにより、ブラジル経済は金融、株価等小康状態を保っている。第2次カルドーゾ政権の経済政策は当面変更がないと考えられる。
    99年6月28日、リオ・デ・ジャネイロにてEUと中南米全諸国の元首級が会議を行なう。EUとの関係推進が、ブラジル、メルコスールにとって今後大きな課題となろう。

  9. 小西在ペルー大使説明要旨
  10. EU、米国はグローバルな投資戦略の一環として、中南米に対し非常に高い関心を持っている。こうしたなか、日本の経済界としても、現段階ではアジアよりも将来性が高いと思われる中南米において、何をどこで作るのかという投資の拠点づくりを検討してほしい。特にペルーは、中南米の中で唯一の円借款年次供与国であり、DAC(開発援助委員会)の新開発戦略の適用第1号ともなっている。

  11. 国安在ベネズエラ大使説明要旨
  12. 先の大統領選挙で当選したチャベス候補については、ただならぬ人物ということで日本の新聞でも大きく取り上げられた。チャベス候補は国会解散、憲法改正、裁判官の公選、民営化計画の見直し等、ドラスティックな公約を掲げ圧勝したが、問題はこれをどこまで実行するかということである。あまり過激な経済政策はとられないであろうが、汚職、治安問題等に対しては、カラカスの治安が非常に悪いことからも英断が必要とされよう。

  13. 浅見在コロンビア大使説明要旨
  14. 先の日本人誘拐事件については、現在コロンビア当局と共に解決へ向け努力している。
    98年8月にパストラーナ新政権が誕生したが、これにより対米関係、さらにはコロンビアの対外イメージの改善が期待できる。また、ゲリラとの和平問題にも積極的に取り組んでおり、明るい兆しも見えている。
    99年にパストラーナ大統領に訪日していただくべく、公式に招待を伝えており、現在時期について調整している。

  15. 藤島在パナマ大使説明要旨
  16. パナマ運河は99年12月31日正午、米国からパナマ政府へ返還される。同時に運河流域の土地も返還されるため、パナマ政府は同地域の開発を進めている。すでに欧米や台湾、中国企業が港湾、観光、製造業等の分野へ進出しており、約200のプロジェクトが計画されているが、日本企業は進出していない。日本はパナマ運河利用の2〜3割を占めており、世界の財産である運河を守るという見地でパナマを考えていただきたい。

  17. 田中在キューバ大使説明要旨
  18. 日本キューバ経済懇話会とキューバ政府との間で、債権債務問題の解決のための合意が実現したことに対し感謝したい。
    99年1月1日、キューバは革命40周年を迎えるが、革命により実現した医療、教育、社会保険といった分野での成果を背景に、カストロ議長の精神力はしばらく続くであろう。ポスト・カストロ問題についても、すでに体制はできており、政治・経済・社会面での安定性も維持されると考えられることから心配はないと思われる。

  19. 田中在メキシコ大使説明要旨
  20. ブラジルに対するIMFを中心とする金融支援が発表されて以降、メキシコ経済も次第に落ち着きを見せてきた。銀行の抱える不良債権問題、石油価格、米国の景気動向が今後を見る上でのポイントとなる。
    EUのメキシコに対する攻勢は非常に強まっており、自由貿易協定締結に向けた交渉が3週間程前に開始された。セディージョ大統領も日本との自由貿易協定締結への期待を表明しており、こうした流れに日本も乗り遅れるべきではないと考えている。

  21. 小林在米公使説明要旨
  22. 米国の中南米経済に対する見方は、先に発表されたブラジルに対するIMFパッケージや、過去に発生した経済危機を通じた中南米経済全体の学習効果に対する評価を背景に、全体的には慎重な楽観論と言える。
    米国と中南米諸国との地域経済統合の進展については目立った動きはないが、今後EUと中南米諸国との経済統合の話が進展する場合には、より積極的に乗り出す可能性はあると思われる。


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