経団連くりっぷ No.94 (1999年1月28日)

貿易部会(部会長 團野廣一氏)/1月14日

わが国の通商政策
−WTO次期交渉および二国間・地域協定への対応


貿易部会では、通産省通商政策局の相澤通商協定管理課長、佐藤国際経済企画官および橘高通商政策企画室長より、2000年から始まるWTO次期交渉への対応および二国間・地域協定への取組みについてそれぞれ説明を聞いた。

  1. WTO次期交渉への対応
    (相澤通商協定管理課長、佐藤国際経済企画官)
    1. WTOでは、昨年秋から月1回程度特別会合を開催し、2000年以降の次期交渉の全体像を巡る議論をしている。次期交渉は、ウルグアイ・ラウンド(UR)交渉のフォローアップであるとともに、昨今の世界経済情勢を受けた保護主義的な動きに対抗するものとして意味がある。本年11月30日からの第3回WTO閣僚会議において次期交渉の内容の大枠が決まる予定である。

    2. わが国としては、すでに交渉対象となることが決まっている農業、サービス分野に限らず、包括的な交渉を行なうことが実りが多いと考えられる。途上国の積極的な参加を得るためにも包括的交渉が望ましい。
      また、URは約8年の長期にわたる交渉となった。この背景にはサービスや知的財産権などに関する新たなルールを更地から整備したことなどがある。次期交渉は世界経済の急速な変化に対応するためにも3年程度の短期間で終結すべきと考える。

    3. わが国として具体的に交渉目標を決定するためには、さらに関係各方面と意見交換や調整が必要であるが、現時点で想定しうるのは以下の6項目である(ただし、これらに限るものではない)。

      1. 投資ルール:
        次期交渉でルール策定を行なうべきである。

      2. アンチダンピング(AD)および貿易と競争:
        競争政策に係る議論に当たっては、ADなど競争歪曲効果をもつ貿易措置も議論の対象とすべきである。また、既存のADルールの執行が貿易歪曲的となる点についても問題であり、わが国としては次期交渉のテーマの有力候補と考えており、具体的論点を精査中である。

      3. 知的所有権:
        途上国の参加が課題であるが、3月中にわが国としての対応をまとめる予定である。

      4. 鉱工業品関税:
        あらゆる品目を対象とすべきである。このなかで、特に、途上国の譲許率の向上、米国のトラックやEUの繊維等、先進国の高関税品目の関税引下げ等が重要な課題である。

      5. サービス:
        次期交渉が初の本格的自由化交渉であり、米国等の民間団体の動きに留意が必要と思われる。

      6. 電子商取引:
        WTOで対応し得る作業について検討中である。

    4. わが国とEUの間には、次期交渉に向けた立場に共通点が多い。先の与謝野通産大臣の訪欧時のブリタン欧州委員会副委員長との共同プレスリリースにおいて、今後も日EUが次期交渉に向けて協力していく旨を明言した。今後わが国としてもAPEC等の場の活用や個別の働きかけ等を通じてアジア諸国を中心に精力的に議論を展開したい。また、5月頃に日本で開催される予定の四極貿易大臣会合を初め、今後の交渉においてわが国として積極的にリーダーシップを発揮していく。

  2. 二国間・地域協定への取組み
    (橘高通商政策企画室長)
    1. グローバル化に伴い、経済活動に対する規制の緩和やルールの共通化が重要性を増している。しかし、マルチでの国際ルールの整備には時間がかかり、また、妥協が必要となる面も多い。そこで、マルチで努力しつつ、並行して二国間あるいは地域の関係を強化するという、重層的、多面的な経済関係の構築が必要となっている。

    2. 自由貿易協定は90年に入って急増した(WTOへの累積通報件数が、関税同盟を含め98年に154件)。EUは東方へ、米国はNAFTAを核に中南米への自由貿易圏の拡大を模索する一方、中南米は独自のグループを作り続けている。また、東南アジアのAFTA、豪州・ニュージーランドの自由貿易協定もある。さらに、EUと北米の間では通商面でのパートナーシップ強化に向けた話し合いが政府間で行なわれている。

    3. 他方、投資保護協定は現在、世界に約1,300ある。70年代には欧米諸国が途上国における自国企業の海外資産を守るために、また、80年代には途上国が自国の投資環境を先進国に対してアピールするために、多数の投資保護協定が締結された。

    4. 自由貿易協定と投資保護協定は車の両輪と見なすべきである。これら経済協定の主な狙いは、

      1. 政治的関係強化、
      2. マルチルールの補完・先取り、
      3. マルチルール策定に際しての影響力の確保、
      4. 参加国の経済的利益増進・経済活動の円滑化、
      5. 他の地域ブロックに対する(排他的にならないための)牽制、
      といったものがある。

    5. 今後、わが国としては、日本企業の産業活動がある国・地域を取り込むような形で協力関係を強化していく必要がある。
      アジアについては、韓国との間で、OECDにおけるMAI交渉の成果を活かした高いレベルの二国間投資協定締結に向け取組みを進めている。ASEANは、現在苦しい経済状況の下ではあるがASEAN自らが求心力を維持・強化すべく努力しているところであり、わが国としては、当面このような努力を支援するため、技術面での援助や産業政策対話を行なうことが重要である。米州については、NAFTA諸国がわが国最大の貿易・投資先であることに鑑み、関係強化が必要である。カナダ、メキシコからも二国間協定を含む貿易、投資拡大に向けた取組み強化について強い関心が示されている。また、米国については民間主体の強固なコミュニケーションを期待したい。

    6. 二国間・地域経済協力を進める上でのアプローチとしては、MAIの考え方を活かした投資協定(制度の透明性、ローカルコンテンツ要求や雇用者の国籍要件などパフォーマンス要求の禁止、仲裁、調停を含む紛争処理手続き等が内容)、自由貿易協定、MRA(貿易手続き円滑化、基準の調和化)、知的財産権の保護やビザ問題を含む人の移動等、さまざまなものがあり、相手に応じた柔軟な対応を考えるべきであるが、このうち、自由貿易協定についてはセンシティブな問題を含むため、実現のためには客観的な研究に基づく国民的支持と政治決断が必要であろう。


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