経団連くりっぷ No.95 (1999年2月10日)

中東アフリカ地域委員会(委員長 黒澤 洋氏)/1月20日

油価低迷下における中東地域の現状

−中近東地域駐在大使との懇談会を開催


中東アフリカ地域委員会では、毎年、外務省が中近東大使会議を開催する機会をとらえ、関係大使を招き、意見交換してきた。本年は、天江外務省中近東アフリカ局長ならびに中近東・米国および国連代表部駐在大・公使22名を招き、最近の中東情勢について意見交換した。以下は外務省側説明の要旨である。

  1. 中近東大使会議の模様(天江局長)
  2. 大使会議では、中東和平、イラク情勢、イラン情勢、産油国情勢、領事問題を含め多岐にわたる議論を行なった。
    中東和平プロセスは、ほとんど動きを見せておらず、5月17日のイスラエル首相選挙まで、和平の進展は期待できない。わが国政府としては、先般、高村外相からレバノンとシリアに対して、所謂4項目を提案し、イスラエルとの和平促進を訴えた。また、パレスチナに対しては、2年間で2億ドルの供与を表明した。
    イラク問題は米国による攻撃の後、出口がみえない。UNSCOM(国連特別委員会)による大量破壊兵器査察が不可能になると将来に禍根を残す。米国の対イラン政策は徐々に変化してきているが、イランのミサイル計画が改善の兆しの見えた対外関係に影を落とす可能性もある。
    油価の低落により湾岸諸国の財政に影響がでている。中東各国は日本からの製造業投資を求めている。日本政府としては、わが国経済界によるミッションの派遣、投資の増加に期待している。

  3. 中東諸国と中央アジア・コーカサス諸国との関係
    1. トルコとの関係(遠山 駐トルコ大使)
      トルコは、EU加盟を諦めたわけではないが、外交の主軸を日米と中央アジア・コーカサスにシフトしている。政府ベースで「トルコ系諸国首脳会議」を開催する等、政府首脳間の交流を頻繁に行なっているが、民間投資はそれほど多くない。
      トルコがアゼルバイジャンとグルジアとの関係を密にする一方で、ロシアがイラン・アルメニアとの関係を強化している。トルコは中東にあって唯一政教分離を掲げ、NATOとOSCE(欧州安全保障機構)に加盟している。トルコは、カスピ海原油のパイプラインをグルジア経由で誘致しようとしている。同パイプラインのルートは、油価低迷と高い経費の問題があり、いまだに決定されていない。NISにとって、トルコは理想的なイスラム国家のモデルである。

    2. イランとの関係(須藤 駐イラン大使)
      イランにとって、中央アジアはかつての自国領であり裏庭である。安全保障の点からは、NISはロシアとのバッファーである。経済的にはカスピ海原油の搬送路を誘致することにより、利権と安全保障の確保を狙っている。
      イランを巡る国際問題は2つ。ひとつは、カスピ海の周辺5カ国間での資源分割交渉の行方である。今ひとつは米国の対イラン制裁の行方である。カスピ海原油の搬出路として、ペルシャ湾岸のイラン原油とのスワップはパイプ敷設が不要であり、次善の策はイラン経由のパイプライン敷設であるが、問題は米国の出方である。米国は、いまだに慎重だが、イラクとの兼ね合いもあって両国関係は改善している。わが国政府としては、ダマト法(イラン・リビア制裁法)の運用で日欧間に差別がある場合には、毅然とした態度で臨んでいきたい。

  4. 中東和平の現状と今後の展望
    1. アラブ社会の見方(小原 駐エジプト大使)
      ムバラク・エジプト大統領は、アラファトPLO議長と緊密な連携を保っている。アラブ社会のネタニエフ・イスラエル首相に対する不信は強く、5月のイスラエル首相選挙までに和平が促進されると見る向きは少ない。アラファト議長には「独立宣言」以上のカードがないが、一方的に独立できるほど国の基盤は整っていない。

    2. ユダヤ人の見方(川島 駐イスラエル大使)
      ネタニエフ不信はユダヤ人の中にも根深い。しかしアラブ不信はそれ以上に根深い。かつてラビン首相は、ヨルダン川西岸とガザを譲り、パレスチナ国家の建設を目論んだが、パレスチナ人の生計は、イスラエルへの出稼ぎに大きく依存している。パレスチナが独立を勝ち得たとしても経済が立ち行かなくなる恐れがある。

    3. シリアの見方(鏡 駐シリア大使)
      シリア・トラックのゴラン高原返還交渉は、過激派のテロ攻撃を期に中断したままである。ネタニエフ・イスラエル首相に対する不信は他のアラブ諸国以上に根強く、交渉再開は5月の選挙後とみている。

    4. レバノンの見方(堀口 駐レバノン大使)
      レバノンは実質的に独自外交権を喪失しており、シリアぬきの交渉はあり得ない。ラフード新大統領は国軍出身、ホッス新首相は経済学者であり、バランスのとれた外交を展開するであろう。とりあえずは国内の経済再建を優先することになる。

  5. 産油国情勢
    1. 低油価の影響(高野 駐サウジアラビア大使)
      ナイミ・サウジ石油相は、油価低迷に伴う産油国間の調整に忙殺されている。しかし300万バレルの過剰生産は解消されていない。国内的には石油収入の減少が大きな影響を及ぼし、減産を難しくしている。石油・ガス産業の外資開放が検討されているが、欧米メジャーは上流から川下までの一貫生産投資を提案している。サウジは対外公的債務がほとんどなく、油価下落による収入減にも余裕で対処している。むしろ中長期的に増加する若年層の失業問題の方が問題である。対日投資要求もそこから来ており、時間的猶予はなくなりつつある。

    2. テロと経済再建(渡邉 駐アルジェリア大使)
      アルジェリアのテロの件数は過去1年で3分の1程度に減少した。今後も、徐々に減少していく見込みである。全般的にマグレブ諸国はIMFによる経済構造改革の優等生である。また石油・ガスを含め国内産業を外国企業に開放しつつある。しかし治安問題がある国に外資の進出は期待できない。治安問題の解決のために社会対策を行ない、あわせて経済対策を行なうことが期待される。


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