経団連くりっぷ No.95 (1999年2月10日)

防衛生産委員会総合部会(部会長 西岡 喬氏)/1月18日

統合に向かう欧州防衛産業

−リシャール・フランス国防大臣との懇談会を開催


フランスのアラン・リシャール国防大臣がわが国の防衛関係者との意見交換のため来日した機会に、防衛生産委員会総合部会(部会長:西岡 喬 三菱重工業副社長)では同大臣との懇談会を開催し、欧州の防衛政策の課題、欧州防衛産業の統合の展望について説明を聞いた。

リシャール国防大臣

  1. 欧州の防衛政策
  2. ユーロの誕生に象徴される経済統合には長い時間を要したが、このような一連の政策の収斂を経て、欧州は安全保障についても共通の目標を持つようになり、欧州の単一防衛政策が検討されるようになってきた。その背景として、冷戦下では表面化しなかった危機や緊張が顕在化してきたという現実がある。
    欧州防衛の第一の柱はNATOである。第二の柱は、米軍の参加なしに、欧州の危機に自ら対応する枠組みであり、1996年に合意されたベルリン・アレンジメントである。実際の危機でこの合意が試されたことはないが、ボスニアにおける欧州軍隊の動員は、その予備的な姿と言える。
    欧州では、欧州理事会にも外交問題を担当する委員会や上級代表のポストが創設されている。欧州にとって、外交と軍事面で協調のとれた環境を醸成することが重要であり、危機に対しても外交と合わせて軍事力を行使できる能力が必要とされている。

  3. 欧州防衛産業の再編
  4. 経済情勢の変化に伴い、欧州の防衛生産能力を見直すことが余儀なくされている。欧州の国防調達予算は90年代初頭に比べて25%も削減され、大型兵器の研究開発コストも企業にとっては重い負担となっている。さらに米国では大規模な業界再編が進み、競争環境が大きく変化した。
    欧州全体の生産シェアの80〜90%を占める英独仏の防衛産業では、1997年12月の三カ国政府の宣言の下で再編を始めている。政府は各国で異なる規則(防衛機密の扱い、武器輸出の権限等)の調整を行なっており、企業合併についてはビジネスの原則で経営者や株主が決定することと考えている。
    まだ最終的な再編の姿は出来上がっていないが、2〜3年で再編の決定は下され、欧州の防衛産業は現在とは異なった姿となる。防衛産業の再編には困難が伴うが、グローバル化に対応する上で必要である。軍民両部門のバランスの観点から、欧州の新しい防衛企業は、大きな民需部門を持つことになり、武器輸出が規制されている日本企業ともその面では連携の可能性も開ける。
    フランスでは、外交・防衛政策について政治の立場を越えて共通の考え方が存在しているため、防衛調達に対する市民の偏見もなく、防衛産業は地域経済に大きな影響を持つハイテク産業として引き続き高い評価を受けていくことになろう。


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