WTOとビジネス活動に関する東京セミナー/2月2日
WTOの次期貿易自由化の開始を年内に控え、外務省他との共催により「WTOとビジネス活動に関する東京セミナー」を開催した。同セミナーでは、内外より著名な参加者を得て、WTOの紛争処理(DS)機能、サービス貿易、貿易と競争などを中心に活発な議論が行なわれた。
WTOの前身であるガットは、無差別原則に基づく関税引下げという成果をあげた。しかし、80年代には、輸出自主規制などの保護主義的動き、途上国の自由化への消極的姿勢、DS機能の非効率、協定の解釈の曖昧さなどの問題点が露呈した。WTOはこうした状況のなかで95年に誕生した。
WTOの設立によって、多角的貿易体制はより強力で広範なものとなった。鉱工業品関税の引下げ、輸入数量規制の関税化、多国間繊維協定のガット整合化、サービス貿易や知的所有権に関するルールの導入、そしてDS機能の強化などが主な成果である。
WTOは貿易と投資、貿易と競争、政府調達の透明性、貿易円滑化、電子商取引といった新たな課題にも取り組んでいる。
WTOは設立以来、保護主義から世界を守る防波堤としての役割を果たしており、加盟国の支持がある限り見通しは明るい。
経済学者は「市場の成功には、それを支える十分整備された制度が不可欠」と言う。適切な法制度とその執行が企業家に予見性を与え、分散的な意思決定を可能にする。WTOの真の意味はここにある。
DS機能はWTO活動のなかで重要性を増している。ただし、ウルグアイ・ラウンド交渉妥結時に最大公約数をまとめたルールには曖昧さが残っている。こうした欠陥はEUのバナナ輸入制度の案件でも露呈した。
WTO協定の一部を成すサービス貿易に関する一般協定(GATS)は、4年前につくられたに過ぎず、2000年からの次期サービス交渉が初めての包括的な自由化交渉である。経済全体に活力を与える競争的なサービス市場の実現をめざし、民間部門が政府の交渉担当者に対して同交渉の成功に向けた働きかけを強化することが重要である。そのためには、
WTOのDSにおける経済学的議論の現状は不十分なものである。例えば、日本の酒税に関する案件では、「焼酎の類似産品は何か」という証明に経済学的な手法が十分用いられていなかった。他のケースの因果関係の立証についても同様である。
現在、貿易と競争の問題が検討されているが、当面、WTOが国際的な競争当局になるといったことはない。途上国を含め、水平的競争制限についての合意は取り付けやすいが、実は垂直的競争制限の方が経済学的に問題が多い。
今後ますますDSにおける経済学的議論の重要性が高まるであろう。WTOの信頼性維持のためにも、この観点から事務局やパネルの人的資源を強化すべきである。
DS制度が大きく改善され、「当事国間協議→パネル設置→上級委員会」といった手続きが自動的かつ短期間に進められることとなった。
他方、政府間の手続きであり、私人がこれに関与することはできない。したがって、私企業はWTO手続きによる解決を求める場合、自国政府に働きかける必要がある。
弁護士がDS案件に多く関わるようになった、NGOの関心が高まったという二つの側面においてWTOは民間に開かれつつある。WTOは、単なる貿易自由化だけでなく、より広い見地から利害のバランスをとることが求められており、一層の透明性確保を促す必要がある。
DS手続きの過程で民間部門からの意見書が提出された場合、当該国政府がこれを公式文書に加えることが可能となった。企業側もこれを踏まえたPR戦略を考えることが必要となる。
紛争を予防するためにも、政府、民間ともにWTOルールへの理解を深めることが重要である。
WTO協定は米国、EUの裁判所では直接適用されない。他方、日本においては、理論的には、条約は国内で法的効力を持ち国内法に優位するものであるが、かつて固有のDS手続きを持っていることなどを理由に、ガットルールは直接適用されないという判断が出されたケースがある。
日本は、86〜87年にかけて、立て続けに農産品、酒税、半導体などでガットのDSに訴訟され、「クロ裁定」を受けた。このようななか、日本として主張すべきことはきちんと主張しようという雰囲気が生まれ、また、DS手続きに慣れてきたこともあり、88年、ECの部品ダンピング防止税を巡り、初めてパネル設置を要求して勝訴した。これは、日本がDS手続きの積極的利用の方向に転換したという意味で意義を持つ。
WTO設立後も、日本はインドネシア、米国などを提訴している。日米自動車事件では、米国の一方的措置に対し二国間協議で妥協などはせず、WTOのDSで筋を通していこうという姿勢が示された。
日本では、企業から提起された外国の違法な貿易制限行為等に対する苦情をWTOのDSに付託するか否かについて政府が広い裁量権を持っている。他方、米国・ECにはそれぞれ、民間が自国政府・欧州委員会にこうした問題を取り上げるよう申し立てるための手続きが準備されている。日本においてもこのような申し立て制度を導入すべきかどうか、少なくとも議論をすべきであり、それには産業界からの強い要求が不可欠である。