今後の日米協力を考える部会（部会長田口俊明氏）／2月1日

日米交渉における民間の役割ならびに
今後の日米通商関係のあり方

今後の日米協力を考える部会では、日米交渉を中心に国際経済交渉において民間の果たす役割につき検討を行なっている。その一環として、富士ゼロックスの米村紀幸常務取締役より環大西洋ビジネスダイアログ（TABD）の活動について、また米国外交問題評議会のブルース・ストークス通商プログラム・ディレクターより米国の対日通商戦略について説明を聞いた。

米村富士ゼロックス常務取締役説明概要

TABDは、ブラウン米商務長官の発案を受けて発足した、官を巻き込んだ米欧民間対話の枠組みで、企業トップが共通の目的について、双方の政府高官とともに意思疎通を図り、米欧間の貿易・投資のバリアーを除き、産業競争力の改善と雇用創出を目指すものである。
95年11月以来、本会議は４回開催され、年々規模を拡大しつつある。
TABDの特色としては、
1. 米欧双方の官民４者による会合であること、
2. 民間がイニシアチブをとってアジェンダを設定し、民間の提案に政府が応える仕組みであること、
3. 政府側がこれらの提案に相当程度応え、成果を挙げていること、
4. 中小企業も専門の分科会を設けるなど、この枠組みに参加し意見交換を行なっていること、
5. WTO等多国間の枠組みに関する問題も幅広く取り上げていること、
6. 双方の議長を務める企業が事務局の役割を担っていること、
が挙げられる。
これまでの取組みの成果としては、相互認証協定(MRA、98年12月発効)を挙げることができる。多くの分野にかかわるテーマであり、通商交渉は政府間の問題であるが、民間レベルでの議論を踏まえて行なうとともに、民間にとって政府の考え方を理解する場ができたことの意義は大きい。
こうした枠組みの下、米欧の官民が幅広く通商上の問題について仕掛けを作り、実施することになれば、日本は取り残される惧れがあり、対応を検討する必要があろう。
日欧間については、双方の政府が前向きの姿勢を示しており、TABD型の枠組みの整備が検討されている。一方、日米間には、日米財界人会議があることから、テーマを厳選すれば、これをベースに官民の意見交換の場を整備することは可能なのではないか。
こうした対応を進めるためには、まず企業幹部の理解が重要である。同時に、米国では、個別分野の専門家が民間に多数いて政策集団を形成し、官とも盛んに往き来している。日本の民間としても、これに対応するために勉強が不可欠であり、専門家の育成にも取り組む必要がある。

ストークス米国外交問題評議会通商プログラム・ディレクター説明概要

個別問題における摩擦やスーパー301条、政府調達に関するタイトルⅦの復活などの動きを見ると、日本人の中には80年代の蒸し返しかと思う人がいるかも知れない。しかしこれは80年代の再来ではない。何故なら、第１に米国経済は大変強い状況にあり失業率も低いこと、第２に議会では上院と下院が貿易問題について分裂していること、そして第３に日本の存在が80年代のようには米国に恐怖を与えないからである。
外交問題評議会ではロックフェラー上院議員、ホートン下院議員を共同委員長に日米通商関係に関する研究会を発足させた。メンバーには元の対日通商交渉担当者が多数参加しており、夏頃迄には研究成果を発表する予定である。
研究会における議論で私が最も驚いたのは、日本に対する圧倒的悲観論である。メンバーの間には日本は結局改革に失敗し、日本の崩壊に米国も引きずられてしまうという恐怖感が非常に強い。また日本の改革の遅さに対する強い苛立ちの気持ちから、結局、妥当な時間的枠組みの中では日本には変化など起きないという考えになっている。こうした苛立ちや恐怖感から、研究会では、日本が崩壊した時に米国はどうやってその被害から自国を守かという議論までしている。
こうした議論は新種のジャパン・パッシングであり、結論だけを見れば「日本は異質で変化しないから、世界から日本を切り離そう」という80年代の修正主義者達の結論と同じである。もちろん、米国が日本の資本に大きく依存しており、かつ日本経済が世界経済に深く統合されている現在、日本を世界から切り離すことなど事実上不可能だが、あえてこうした点を指摘するのは、米国における恐怖、苛立ちの気持ちが米国人をそうした発想に導きかねないということを言いたいからである。
他方、日本崩壊シナリオとは別の懸念も表明されている。それは日本が崩壊せずに３～５年で何とか現在の状況を切り抜け、まったく変革しないままに存続することへの恐れである。研究会では、日本の変化の度合いを測るため、第１に日本の産業構造の変化、第２に日本の製品輸入レベル、第３に対日直接投資のレベルの３つの指標に注目している。
日米両国は日々の経済問題に追われて将来に関するビジョンを描けずにいる。そこで私は、2010年までに日米間で自由貿易協定を締結にすることを提案したい。率直にいって現在、両国政府がそうした目標を真剣に取り上げるとは思えないし、そうした目標に向けたゲーム・プランを考えている人間もワシントンにはいない。しかし、もし両国間に自由貿易協定のような共通の目的があれば、経済摩擦が起きた際にもそれらを友人同士の間の日常的問題として捉えることができる。また、すべての個別問題が日米関係を脅かす問題とされる現在の状況からも脱却できる。米欧間にもさまざまな個別問題が存在するが、それらは決して米欧関係を脅かすとは捉えられていない。さらに、そうした枠組みを中心に日米版TABDも含めてさまざまな活動を検討していくことができるだろう。
こうした考えは野心的で単純過ぎるかも知れない。しかし日米間に将来への大きなビジョンがない限り、ますます困難になる日米通商関係の中で両国は一つの危機から次の危機へと切り抜けていくしかない。これまでもそうしてきたし、今後もそうできない訳ではないが、それは日米両国が支払う必要のない犠牲だと思う。

くりっぷ No.96 目次／日本語のホームページへ

日米交渉における民間の役割ならびに 今後の日米通商関係のあり方

米村 富士ゼロックス常務取締役説明概要

ストークス 米国外交問題評議会通商プログラム・ディレクター説明概要

日米交渉における民間の役割ならびに
今後の日米通商関係のあり方

米村富士ゼロックス常務取締役説明概要

ストークス米国外交問題評議会通商プログラム・ディレクター説明概要