経団連くりっぷ No.96 (1999年2月25日)

国土・住宅政策委員会 地方振興部会(部会長 金谷邦男氏)/1月25日

地方都市の活性化と交通まちづくり


都市の再生を図る上で、適切な交通政策を推進することは不可欠の課題である。そこで、中心市街地の活性化に向けた検討を進めている地方振興部会では、太田勝敏東京大学大学院研究科教授を招き、「地方都市の活性化と交通まちづくり」について説明を聞き、懇談した。

  1. 太田教授説明
    1. 車社会の進展と中心市街地の衰退
    2. モータリゼーションの進展は、都市の郊外化(スプロール)を招いた。郊外化は人口の郊外化、サービスの郊外化、オフィスの郊外化の3段階で発生する。現在、米国は第3段階、日本は第2段階にある。
      米国では大都市圏の外側の環状道路沿いにエッジシティといわれる郊外型のオフィスセンターが民間主導で建設されているが、都市圏全体からみた戦略的な立地となっていないことが問題となっている。
      都市は教育や医療などの機能を保持しながら、時代とともに新しい機能のセンターをつくっていかねばならない。しかも焼き畑的な発想で拠点を移していくのではなく、タウンマネージメントを行なうことにより、21世紀の新都市に相応しい都心(タウンセンター)につくり変えていくことが必要である。

    3. 英米の経験
    4. 英国、米国では、1960年代より中心市街地衰退の問題に直面したが、日本で強調されている中心商業地区の衰退への対応に限らず、旧港湾地域、鉄道用地、工業地帯と周辺の住宅地も含めた広域的なインナーシティ全体の再生を目指して仕組みづくりをしている。英米とも当初は、公共による大規模な再開発事業を中心としてきたが、最近では民間ディベロッパーやNPOとともに修復・保全型の再開発に取り組む事業が増えてきている。
      例えば米国では都市の成長管理を目的に据え、ダウンタウン改善特別行政区を設定し、民間主導の開発負担金等の徴収権(ある種の徴税権)を持つ「準政府」が地域の清掃、警備事業(照明、監視カメラ設置等)、産業振興施策、社会事業(ホームレス対策等)などを行なっている。英国では、地域住民、商店・事務所などの民間部門、公共交通、道路、駐車場関連主体が参加した官民連携パートナーシップ(PPP)によって運営されるタウンセンターマネージメント組織が、自治体の支援の下に、官民の調整と企画、清掃、防犯活動などに取り組んでいる。いずれも日本の中心市街地活性化法で設置されるタウンマネージメント機関より広範な権限と責任を持つ。

    5. 都市活性化の基本戦略と交通政策
    6. 英国における都市の再生・活性化は、

      1. Attraction(多様性・集積性)、
      2. Accessibility(到達容易性、回遊性)、
      3. Amenity(快適性・治安)、
      4. Action(組織力・資源)、
      の4つのAの要素からのアプローチにより行なわれる。これらの要素を取り込んだタウンセンターのメニューも具体的に整理されている。
      欧米の市街地活性化のメニューの中から交通政策の部分を取り出してみると、通過交通についてはバイパスや都心部を迂回する内環状道路を整備し、都心方向への放射状幹線道路はバスレーンを設置し、郊外部でパークアンドライド駐車場を整備して、都心への公共交通アクセスを確保している。都心部については、交通回遊性の改善を目指して歩行者空間を整備し、公共交通についてのみ通行を許容するトランジットモールを設定したり、道路に起伏(ハンプ)を設けて速度の上げ過ぎを防ぐなど交通静穏化の工夫をしている。またバスやバス停では乗降時に段差がなくても済むようにノンステップ化されている。高齢者・障害者対応としてショップモビリティと呼ばれるNPO主導の活動も英国では盛んであり、都心部には貸し車椅子が用意されている。都心での買物支援のために、買物カートを域内どこでも自由に使える都市もある。ビジターへの対応としては、街の入り口でビジターがどこでパークアンドライドすればよいか等が分かるような地図を配るなどしている。
      日本でも東京都武蔵野市のムーバスのようなコミュニティバスが増えてきており、福祉目的から一般市民向け、さらには埼玉県川越市のように観光客を取り込んだものまで、自治体の工夫が凝らされてきている。また、学生の力を活用してホームページを作成している地域もあるが、タウンマネージャーとしての役割を担う人材の育成は、今後の大きな課題である。

  2. 懇談
  3. 経団連側:
    英国では歩行者優先、公共交通優先の原則が守られているというが、どのような仕組みがあるのか。
    太田教授:
    市民の合意があり、モラルが高いことは言うまでもないが、路面表示などの標識が行き届いていることも大きい。さらに交通規制権限は分権化されて自治体にあり、駐車規制の取締り等は、市役所が駐車監視員を雇ってきめ細かく実施している。

    経団連側:
    高齢化への対応の鍵は何か。
    太田教授:
    コミュニティバスのみならず、ボランティアによる送迎(ソーシャルカー)、あるいは公共個人自動車(自分で運転する公共レンタカー)の設置などが考えられる。

    経団連側:
    日本のコミュニティバスの財源はどうなっているのか。
    太田教授:
    従来は欠損補助であったが、適正なサービス水準の確保を条件とした委託契約の方式を取るようになった。補助のあり方として、建物建設への補助ならともかく、サービスへの補助については、補助の目的さえあっていれば方法は問わない形にしないと、工夫の幅が狭められる。

    経団連側:
    交通政策上の措置を講ずる財源はどうするのか。
    太田教授:
    公共事業の民間委託などのコスト低減の工夫が必要だ。結局は市民の合意が前提だが公共交通が公共的サービスとして必要ということになれば、自治体に新たな財源が必要である。各国も事業所交通税(仏)、燃料税上乗せ(米国)などを行なっている。また英国ではロードチャージは自治体の財源となっており、交通政策を地域で決めることができるようになっている。


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