経団連くりっぷ No.97 (1999年3月11日)

駐欧州地域各国大使との昼食懇談会(座長 熊谷副会長)/2月17日

ユーロ導入後の動向と対応について


外務省主催の大使会議出席のため一時帰国中の駐欧州諸国の各国大使35人を招き、熊谷副会長、大島経済局長の挨拶に続き、5大使より欧州通貨統合後の各国の動向と対応について説明があった。以下はその概要である。

  1. 松浦 駐フランス大使
  2. フランスは現在、好景気にある。本年度のGDP成長率も2.7%が見込まれ、経済成長は維持されるであろう。フランからユーロ通貨へスムーズに移行し、それに伴い、域内の競争激化はさらに推進される。2月の調査において国民のユーロの支持率は60%を越え、政権の支持率も従来より高まっている。コアビタシオン(保革共存)はぎくしゃくした関係にあるが、欧州統合についての考えでは一致している。当面はユーロの定着という共通目標のもとで、政権は安定する見通し。
    失業率については低下傾向にあるものの、依然として高く、懸念される。国内政策は、雇用の創出と欧州統合の促進を目標に掲げ、とりすすめられている。この2つの政策が相反してくる状況になるとフランスはジレンマに陥ることになる。経済界については、特にMEDEF(フランス産業連盟)を中心に日本に対する注目は増しており、両国の経済関係は順調である。

  3. 久米 駐ドイツ大使
  4. ドイツはフランスと対象的に国民のユーロに対する支持率は低く、発足時で反対が70%を占めた。このことはマルクが戦後のドイツ繁栄のシンボルであり、国民がマルクを失うことに不安を感じていることが背景にある。現在は評価も高まり、反対は50%近くまで減っている。ユーロ参加国の高インフレ、財政赤字に対する不安も根強いが、財政の安定化協定の成立と欧州中央銀行(ECB)の独立性確保で懸念を払拭している。
    ドイツの景気については下降している。経済は輸出主導で順調に成長してきたが、昨秋から輸出に陰りが出始めている。内需は伸びているものの先行き見通しは厳しい。特に、欧州内で労働コストの高い国から低い国へ産業が移動することによる国内産業の空洞化が不安視される。労働移動も国際協力関係で抑え込みたいが、このことは欧州統合の促進と逆行する。現状の失業問題は深刻な問題である。
    欧州通貨統合についてシュレーダー新政権はコール前政権の意志を継承している。財政政策は紆余曲折を経て、新政権でも困難な問題と体制事情があり、悲観論は残る。ユーロの影響は特に企業側の意識にあらわれ、各州のコストの一本化へ統一が図られている。また、首都移転、地方への権力分散という重層構造も同時に進んでいる。環境問題については不安材料を抱える。特に原発問題も試行錯誤を繰り返し、表向きは全面撤退であるが、実施の期日については今後、決めていくことになる。

  5. 瀬木 駐イタリア大使
  6. イタリアは、EU諸国の中でも累積赤字が大きく、ユーロ参加に対し国民の不安は大きかったが、収斂基準をクリアし、ユーロの導入が実現し、国をあげて大いに祝った。ただ依然として、南北の地域間の経済格差は大きい。現在は国をあげて、南部地域の経済復興に取り組んでいる。ユーロに対する意識も導入の実現によって、国民は前向きな姿勢に変わった。ユーロに対する評価は参加していない国もあるという楽観的な見方をすればプラス評価にある。今後は英国が参加するか否かが、評価のバロメータになると考えている。
    日本国内の経済情勢の影響で、海外駐在事務所の閉鎖や撤退も続いている一方、イタリアでは産業革新が起こっている。企業の幹部の方々も機会をつくり、イタリアへお越しになることを是非、お薦めする。駐在の役割、現地化の必要性を感じるはずである。

  7. 林 駐英国大使
  8. ユーロ不参加ではあるが、昨年の1月〜6月は欧州議長国として役割を果たした。ブレア政権はユーロについては、「ユーロの成功は英国の利益」という立場で参加準備を進めている。ただ、国民のユーロに対する見方は厳しい。最近の調査でも未だ支持率は29%と低い。また、マスコミも英国のユーロへの参加には厳しい論調で反対している。その理由として、英国が欧州に政治的に統合される不安と、経済構造の異なるドイツの硬直的な市場とラ・フォンテーヌ蔵相の政策に対する懐疑的な見方にある。今後はシティを中心とする金融界の反応がユーロ参加の見極めどころになる。英国に進出している日系企業も参加を望んでいる。
    日本からの直接投資の低下を含め、本年は大幅に成長が鈍化しそうであり、景気の先行きには危機感を強めている。同様に失業率も今後、高まる見込みである。

  9. 糠沢 駐ハンガリー大使
  10. ハンガリーは本年3月15日にNATOに入る予定である。他の中・東欧諸国と比して、ハンガリーはロシアとの距離が遠のき、OECD諸国とより近い関係にある。
    経済はGDP成長率は4〜5%で安定し、失業率は年2%ずつ低下して、昨年暮れには8〜9%の水準になり欧州諸国でも最良のグループに入っている。インフレ率も本年は10%を切ることが確実になってきた。対米依存度は高いが、日本との関係においても貿易では東欧において輸出入いずれも最大で、2位と3位を併せた額より大きい。観光客においてはハンガリー側入国統計では約9万人で、1位を譲っていない模様。貿易赤字については増えているが、直接投資に少し時間差をつけて資本財の輸入が増える間は、止むをえない。少なくともハンガリーについては、資本財が輸入の5.3%(1998年)であるから、成長熱にある。政府は貿易赤字が余り大きくならないように監視を始めた。外貨準備高については93.4億ドルで越年し、債務を大きく上回っている。財政・金融当局は、短期資本取引はきちんと規制するなど、慎重な経済運営をしている。日本企業にこのような健全体質で成長熱のあるハンガリーと仲良くすることを強くお薦めする。


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