経団連くりっぷ No.97 (1999年3月11日)

首都機能移転推進委員会(委員長 河野俊二氏)/2月25日

日本再生のための首都機能移転のあり方について


現在、政府の国会等移転審議会が移転先候補地を選定中であり、今秋には答申を取りまとめ、候補地を決定する予定である。こうした動きに対応し、首都機能の移転推進に向けての国民的な関心をさらに盛り上げていく必要がある。そこで、首都機能移転推進委員会では、三井物産の寺島総合情報室長を招き、首都機能移転の意義、新首都のあり方等について説明を聞き、意見交換を行なった。

  1. 寺島室長説明要旨
    1. 20世紀型国家形成モデルの限界
    2. 今日、わが国が直面する経済危機について、「金融が安定すれば再生する」等の声が聞かれるが、これだけでは中身に乏しい額縁の議論にすぎない。確かに、金融セクターは触媒産業として重要な機能を担うが、金融を基盤として21世紀の日本は一体何を生きる糧としていくのか。製造業、建設業、農業等、モノづくりにおける日本人の技術力を疎かにすべきではない。まず、わが国の21世紀型国家形成モデルを作らなければならない。
      20世紀のわが国は、長年にわたって日英同盟、日米安保といった「アングロサクソンとの同盟」を外交軸とし、海外から資源と技術を導入し、勤勉で優秀な労働力で加工し、製品として国際市場に輸出するという「通商国家」を国づくりのモデルに置いて発展してきた。
      しかしながら、今日のわが国が直面している危機は、これまでの20世紀型のモデルが、もはや通用しなくなっていることを示している。

    3. 新都市創造を通じた日本再生
    4. 21世紀の日本が取るべき道は、外交軸の多元化と内外需均衡型モデルを構築することである。首都機能移転は新しい国づくりのモデルを具体化していく上で格好の中核プロジェクトとなる。政府の国会等移転審議会は、首都機能移転に12兆3,000億円が必要と試算しているが、数十年がかりのプロジェクトであることを勘案すれば、1年当たりの財政負担はさほど大きいものではない。むしろ、「新首都の建設」を通じて、日本再生に向けた構想を具体化していくことの意義の方が大きい。
      新首都建設を通じて、例えば以下に掲げる5つの構想を具体化し、内外に明確に示すべきであると考える。
      第1は、環境保全型実験都市である。例えば、新都市はエネルギー利用効率を東京の2倍、二酸化炭素排出量を東京の半分にすることを目標にすれば、日本中の環境関連企業が新都市建設を目標に研究開発、設備投資を進める。全力を挙げて環境保全技術を投入する実験の場となる。
      第2は、国際中核都市である。ジュネーブは、国連欧州本部など15の国連機関の存在により、世界から年間40万人の関係者が訪れ、スイスにおける国際情報の集積力を高めている。もし、日本も国際機関を新都市に集中させれば、情報集積力が高まるばかりでなく、国際都市は核攻撃されにくいという意味で、広義の安全保障戦略上の付加価値も期待できよう。
      第3は、ゆとりある住環境と高度な情報インフラを備えた都市である。今日、消費が伸びない本質的理由は、大都市部の住環境の乏しさにある。家が狭くてモノを買うことができないという制約を改善し、未来に向けて蓄積できる充実した住環境を再設計すべき時期を迎えている。新首都へ移転した国家公務員住宅等の跡地は、東京の住居環境改善のてことなる。
      また、情報インフラの整備は、東京で進めようとすると、どうしてもコスト高となる。情報化関連事業は東京に事務所を立地する費用だけでみても国際的に不利である。ワシントンとニューヨークは400km離れているが、この距離を効率的にコミュニケートするニーズに対応する形で、技術開発等を進めたことが、国全体の情報技術革新のための情報化投資を促進する契機となった。
      第4は、文化性を重視した都市である。無味乾燥なハード中心の人工都市をつくるだけではなく、文化施設の運営をボランティアの活用等とリンクさせ、人間の顔をした創造的な都市を建設する必要がある。その意味からも、新都市の創造は、できる限り若者の手に委ねるべきであろう。
      第5は、政治と経済の分離のメリットである。従来は、政治・行政・経済機能の東京への集中が便利と考えられてきた。しかし、一方で、政治と経済の持たれ合い構造を生み出す温床となってきた。私はワシントンとニューヨークに計10年以上住んでいたが、両都市の適切な距離感が、政治と経済のほど良い緊張関係をもたらしており、参考にすべき点は少なくない。
      このような5つの構想の具体化をはじめ、新首都の建設は、戦後蓄積してきた富と技術をどう活用するかの知恵比べである。21世紀の資産となるような新都市を創造できるか、日本人の構想力が問われている。

  2. 意見交換
  3. 経団連側:
    筑波学園研究都市をどのように評価するか。
    寺島室長:
    筑波とワシントンのマクリーン地区は、高学歴者が集中して住むという意味で共通している。新都市を建設する際には、多様性の維持が可能な文化都市を創設することが重要である。また、日本は社会工学的な発想が立ち遅れているが、例えば、非営利組織等を活用して、年寄りや失業者に対し、低賃金でも社会的に意義のある仕事を供給できれば、今日の失業や高齢化等の問題も大きく変わるであろう。

    経団連側:
    東京圏の今後についてはどのように考えるか。
    寺島室長:
    東京を空洞化させずに新首都を建設することが重要である。固定観念にとらわれずに、首都機能移転を東京再生のための良い機会と捉えるべきであり、女性が行きたいと感じるようなしなやかで魅力的な21世紀型の都市づくりに向けて東京と新都市で知恵比べを行なうことが必要ではないか。


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