経団連くりっぷ No.98 (1999年3月25日)

第51回九州・山口経済懇談会/3月10日

新たな発展の基盤の確立と地域経済の自立に向けて


経団連では、九州・山口経済連合会(九経連)と共催で、標記懇談会を福岡市において開催した。当日は、大野九経連会長はじめ地元経済人約250名が、経団連からは、今井会長、伊藤・樋口・古川・辻・前田・鈴木の各副会長が出席し、3月にオープンしたばかりの「博多リバレイン」内のホテルで開催した。懇談会に先立ち、経団連側は博多リバレイン内の福岡アジア美術館、ショッピング施設ならびに公設民営劇場である「博多座」などを視察した。

  1. 開会挨拶
    大野 茂氏(九経連会長・九州電力会長)
  2. 本日は今井経団連会長に、オープンしたばかりの「博多リバレイン」をご視察いただいた。なかでも福岡アジア美術館は、太宰府に建設が予定されている九州国立博物館とあわせ、アジアの学術・文化の交流拠点となることが期待される。
    今後の国の制度のあり方として、国の規制は事前規制から事後チェックに変えていく必要がある。また、国の事業は、民間で出来るものは民間で、地方で出来るものは地方で行ない、国の役割をできるだけスリム化しなければならない。九経連としては、「地域のことは地域で決める」という基本的な考え方の下に、様々な課題に取り組んでいく。

  3. 九経連側発言
    1. 九州経済の現状と課題
      佃 亮二氏(九経連副会長・福岡銀行頭取)
    2. かつては元気がいいと言われた当地域の経済も九経連が行なったアンケートでは、3社に2社が景気の現状を「悪い」と認識している。
      一方で変化の兆しもあり、家電販売額やコンビニ販売額は堅調に伸び、企業整理倒産件数は3カ月連続して前年水準を下回っている。99年度政府予算案では、当地域の主要プロジェクトには概ね要求通りの予算措置が講じられた。地方としてもプロジェクトの優先順位などにメリハリを効かせていくことが重要だが、地域の骨格となる高速交通体系の整備は、地域経済の自立のために必要な条件である。

    3. 新産業創出への取組み
      古賀義根氏(九経連副会長・東陶機器相談役)
    4. 九州地域には、産業集積は小さいもののベンチャーなどが育ちつつある産業、ポテンシャルの高い産業が多くある。特に航空宇宙産業は、産業の発展を促す次世代リーディング産業として、その展開に大きな期待が寄せられている。最近では、域内の各大学において宇宙分野の研究が進んでおり、地球観測衛星データを広く活用するための「九州地球観測情報センター」の実現を目指した活動も行なわれている。
      また、観光産業については、阿蘇や沖縄は観光客が着実に増加しているものの、その他では伝統的温泉観光地を中心に厳しい状況が続いている。一方、東アジア地域からの観光客は近年増加傾向にあり、韓国からの観光客も徐々に回復しつつある。九州は優れた観光資源を有しており、基幹産業としてその振興を図っていくことが重要である。

    5. 環境調和型経済社会の形成に向けて
      萬谷興亞氏(九経連副会長・新日本製鐵常務取締役八幡製鐵所長)
    6. 当地域においては各企業の温暖化対策に加え、北九州市や大牟田市がエコタウン事業の認定を受け、資源リサイクル、廃棄物減量化を目的とした拠点整備が進められている。北九州市では昨年、ペットボトルのリサイクル施設が稼動し、多くの自治体から分別されたペットボトルのリサイクルを引き受けている。私が本日着ている背広は1.5リットルのペットボトル16本の再生繊維から出来ている。ご覧いただければ、みすぼらしい物ではないことが分かると思う。本来、使用済ペットボトルを再利用すればもっと利用効率は高まるのであるが、

      1. ゴミから再生したボトルを利用することに抵抗感がある、
      2. 再生した方がコストが高くなる、
      等の理由で実現していない。今後は、循環型社会を定着していくためにも環境教育にも力を入れるべきである。

    7. アジアとの共生を目指して
      野崎元治氏(九経連副会長・十八銀行頭取)
    8. 九州・山口地域は、アジア諸国との歴史的交流と地理的近接性を活かし、経済・学術・文化の分野でもアジアに特化した交流実績を積み重ねてきている。アジア九州地域交流サミット、アジア太平洋都市サミット、日韓海峡沿岸県市道交流会議などが開催されているほか、各県がアジアの都市に海外事務所を持つなど積極的な国際交流が行なわれてきている。全総計画でも「本地域はわが国のアジアへのゲートウェイに止まらず『アジアと一体化して発展する九州』を目指す」と位置付けられた。
      九州・山口地域では、アジア諸国との間でICや自動車関連産業などの産業連携、学術・文化面での共同研究、観光産業の共同振興、公害防止技術の移転などに取り組んでいる。こうしたアジアとの共生の前提として基礎的な社会資本の充実が必要であり、世界的な水準を持った空港・港湾、域内高速交通体系や情報基盤の整備をすべきである。

  4. 経団連側発言
  5. 樋口副会長からは「経済戦略会議では234の提言を、実行すべき時期や関連法令とともに示した」と報告があり、前田副会長からは「税制と年金等の社会保障負担を合わせた公的負担全体のあり方の見直しが必要」、伊藤副会長からは「企業年金の積立不足を埋めるために企業保有株式を現物拠出できるスキームが必要」との説明があった。鈴木副会長は「大型店と中小店が知恵を出し合い、地域づくりを進めるべき」、辻副会長は「事業者自ら適切な管理、使用、排出削減努力を行ない、有害化学物質対策をすべき」と訴え、古川副会長は「本日学んだことを経団連の今後の都市政策の提言に活かしていきたい」と述べた。最後に今井会長が「当地では毎年、新しい取組みを見せていただいている。今後も新しい地域づくりに熱心に取り組んでいただきたい」と締めくくった。


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