経団連くりっぷ No.98 (1999年3月25日)

PFIシンポジウム/3月8日

日本におけるPFI推進の課題─英国の取組みに学ぶ


経団連ではPFI(Private Finance Initiative)の推進に取り組んでいる。議員立法のPFI推進法案が今通常国会で継続審議となっているが、PFIに関する理解の促進を図り、法案成立に向けた気運を高めるべく、英国から同国財務省PFIタスクフォースのエイドリアン・モンタギュー代表、国際会計事務所プライスウォーターハウスクーパースのトニー・ポールター最高責任者を招き、日本開発銀行との共催によりPFIシンポジウムを開催した。
約500名の聴衆が集まったこのシンポジウムでは、今村国土・住宅政策共同委員長の挨拶、モンタギュー・ポールター両氏の講演の後、両氏に小杉隆自民党PFI推進調査会会長代理(PFI推進法案提出者)、前田経団連評議員会副議長、梶田邦孝日本経済研究所理事長、吉野直行慶應大学教授を加えてパネルディスカッションを行なった。

  1. モンタギュー代表講演要旨
    1. 英国におけるPFI導入の意義
    2. 英国においてPFIが導入されたのは、今日の日本と同様、不況が長引き、また公共部門の投資効率の悪さが指摘されていた1993年であった。財務省ではいかに財政を悪化させずに公共投資を行なうかを考え、PFIの採用に踏み切った。PFIの基本原則は、高いバリュー・フォー・マネー(公共資金の最も効果的な運用)を提供するものであること、民間がリスクについて相応の負担をすることである。PFIは、新しい公共調達の手段であり、かつ公共部門の改革をもたらすものであり、国民の納める税金を賢明に使うものである。PFIは民営化と混同されがちだが、公共部門が公共事業・投資においてコントロールを失うものではなく、政府のコミットメント無しに資金を提供するといったものではない。
      公共部門がPFIで得るものは、行政目的を達成する手段としての施設ではなく、行政目的そのもののサービスであり、サービスを得るための事業ライフサイクルコストの削減である。効率的経営、成果に対するインセンティブ、リスクの効率的な分配が、PFIによる戦略的思考の下で判断・実行され、より質の高いサービス(バリュー・フォー・マネー)が得られることになる。

    3. 英国でのPFI事業
    4. 英国では公共事業の3割がPFIによって実行され、一定の実績を持つ成熟分野としては、道路、橋梁、トンネル、病院・医療施設、政府業務施設、一部の防衛関連事業が挙げられる。現在成長中の分野としては、有料道路、地下鉄、街灯システム、学校、情報通信や汚水・廃棄物処理のプロジェクトなどが、また誕生しつつある分野としては、社会福祉住宅、都市再開発事業、都市部交通渋滞緩和スキームなどが挙げられる。

    5. PFI手法選択の方法
    6. 行政として必要な事業にPFI手法を用いるかどうか決定する上で不可欠なのがPSC(Public Sector Comparator)、すなわちPFIでその事業を行なった場合と、従来型の手法で行なった場合とのシミュレーションの比較である。競争のおこる環境、バリュー・フォー・マネー、政府の支払い負担能力の軽減、アウトプット仕様(設備自体でなく結果としてのサービスを求める形での調達方法)、会計上のオフバランス効果などの要素を比較して、従来型の公共投資と比べて、PFIが十分に効果的であれば、PFIを選択することになる。

    7. 英国の経験からの教訓
    8. 英国と異なる大陸法体系の日本においては、明確な法的裏付けにより、民間が契約主体となる権限・能力を有することに何ら疑義が無いことを明らかにすることは必要であろう。また2、3のパイロット事業を優先的に実施し、現実にPFI事業の例を示すことも重要と考える。さらに国民の利益を担保するためにもリスクの適切な管理が必要であろう。また、契約のひな形を設ける等PFIによるプロセスを統一化することは重要である。さらに公共部門職員の利益を理解すること、また公共部門において民間の持つスキルを養成していくことも英国からの教訓となろう。
      PFIの導入は政府を資産の所有・運営主体からサービスの購入主体へと変え、小さな政府への移行を促す。また公共部門の調達方法を変革し、効果的な公共資金運用をもたらす。そして、この実現には何よりも政治の強いリーダーシップが必要である。

  2. ポールター最高責任者講演要旨
    1. PFI導入の影響
    2. PFIの導入は民間に対してどのような影響を与えたか整理してみたい。
      第1に、気まぐれな公共支出パターンに終止符が打たれ、事業機会の平準化、安定的な確保がなされた(例:仮想通行料金による道路整備)。第2に、求められたサービスが提供できさえすれば、運営・管理の方法は民間に任されており(アウトプット仕様の発注)、運営・管理などに関する新たな事業機会が提供された。第3に、バリュー・フォー・マネーに対し継続的努力が払われることにより、事業のライフサイクルをベースとした全コストでの評価等が確立された。第4にサービス受託という新産業の発展、第5に証券化など資本市場の発達・高度化がもたらされた。

    3. 日本への示唆
    4. 日本においてPFIを導入する上では、事業計画とコーディネーションが重要であり、またリスク分担に関する明確な戦略が必要である。PFIは新しい事業分野を開拓するチャンスをもたらし、また金融市場に対し競争による新しいファイナンス手法の探求を促すことも示唆しておきたい。

  3. パネルディスカッション
  4. パネルディスカッションでは、梶田理事長がPFI推進法案に関して「日本には実定法の制定が必要」、前田副議長が「法律を拠り所に、まずは小さく生んで大きく育てるべきだ」と訴えた。これに対し、法案提出者の小杉議員は「PFIの推進を図る上で今通常国会で何としても法案を成立させる必要がある」と来場者の支援を求めた。また吉野教授は「第3セクター方式との違いを明確にする上で明確なリスク分担等が前提となる」と指摘した。


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