第606回理事会/3月16日
一昨年のアジア通貨危機、本年1月のユーロ誕生等を受け、円の国際化の重要性が高まっている。そこで、理事会では、大蔵省の黒田東彦国際局長より円の国際化について聞いた。また、席上、今井会長から、貿易・資本取引の円建て化について検討するよう各社にお願いした。
円の国際化をめぐる議論が盛んになっている。その背景として、第1に、アジア通貨危機があげられる。従来、国際取引において、アジアの企業・銀行は、自国通貨がペッグし為替リスクの低いドルを選好してきた。このため、日本の企業・銀行が円建ての取引を望んでも、なかなか実現しなかった。しかし、通貨危機の発生によってドルペッグが崩れ、アジアの企業・銀行にとってドルが最も安全な通貨とは必ずしも言えなくなったため、現在は、取引の実状に即して円建てやユーロ建ての取引も行なおうという気運が出ている。
第2に、ユーロの誕生があげられる。新しい紙幣・硬貨が流通するのは3年後であるが、すでに各国通貨とユーロとの交換レートは固定されており、また、預金、決済はユーロで行なわれているため、実質上、単一通貨に移行したと考えて良い。ユーロ参加国経済は米国経済に匹敵する規模であるため、ユーロは欧州域内だけでなく、国際的に使用され、ドルに並ぶ国際通貨になっていこう。国際ビジネス=ドルビジネスという構図が崩れ、ドル一極体制とも言える現行の国際通貨体制が変化する大きな契機となる。
第3に、日本版ビッグバンの進展があげられる。すでに昨年4月に外為法が全面改正され、あらゆる企業、個人が自由にクロス・ボーダー取引ができるようになっている。
しかし、このような内外の状況変化に伴って自動的に円の国際化が進むわけではない。まず、円の国際化の条件として、
世界経済に占める割合(96年名目GDP)は、米国が25.4%、日本が15.8%、ユーロ参加11カ国が23.7%、EU15カ国が29.5%となっている。世界貿易に占める割合(97年)は、域内貿易が多いユーロ参加11カ国、EU15カ国が3割前後と非常にシェアが高い。
一方、貿易における使用通貨(92年)は、ドルが48.0%、円が5.0%、EU15カ国の通貨が31.0%となっている。ユーロランドの中東欧やアフリカ諸国等との経済的結びつきの深さを考えると、ユーロは、今後、貿易取引においても相当のシェアを占めることが予想される。また、外貨準備に占める割合(97年末)は、ドルが57.1%と飛び抜けて高く、円は4.9%、欧州通貨は2割前後となっている。ユーロへの移行過程で、欧州通貨の割合は一時的に減少するものの、移行後のユーロのシェアは相当高くなるであろう。
わが国の対世界貿易における通貨建ては、輸出の51.2%がドル、36.0%が円である。また、輸入は71.5%がドル建て、21.8%が円建てである。輸入のドル建て比率が高いのは、石油等の国際商品が多いことに起因するが、いずれにしても過度のドル依存にある。これには、わが国の主要な貿易相手であるアジア諸国が、アジア通貨危機まで実質ドルペッグの下、ドルを選好してきたという背景もあるが、日本企業自身、国際取引はドル建てで行なうものという意識が強く、これまでの慣行でドル建て取引を続けてきた面もある。中長期的にどの通貨建てが為替リスクや流動性リスクが低く、利益が大きいか、国際環境の変化を踏まえ、改めて検討する必要がある。前述のように、アジア各国でも円建て取引へのニーズが出てきており、これまでのドル建ての見直しは、双方にとってメリットのあることであると考えている。
円の国際化は、
昨年末、政府が新たに取りまとめた円の国際化の推進策は次の通りである。第1に、TB(短期割引国債)に加え、これまで日銀が引受けていたFB(政府短期証券)についても、本年4月から市中公募を行なうこととした。発行規模で見ると、TBの12〜13兆円に対し、FBは30兆円であるので、かなり大きな投資対象が短期金融市場に登場することになる。第2に、税制改正により、一定の要件を満たすTB、FBの償還差益につき、その発行時の源泉徴収を免除し、外国法人については、原則非課税とすることとした。また、非居住者や外国法人が支払いを受ける利付国債の利子につき、一定の要件を満たすものは、源泉徴収を免除することとした。さらに、有価証券取引税および取引所税を今月末で廃止する。その他、国債の償還年限の一層の多様化等も行なうこととしている。
円の国際化は、日本ばかりでなく、アジア諸国をはじめ国際的にもメリットがある。政府としては、必要な環境整備は今後も進めていくが、円の国際化を推進していくためには、官民が協力して取り組んでいく必要がある。